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第125話◇新幹線で

 帰りも結局空いてたので、自由席。 「先輩、こっち座りましょう」 「んー」  一番端の席。  行きは向かい合ってる席に座ったけど。 「隣でいいでしょ?」 「ん」  窓際に先輩、通路側にオレ。上に荷物を乗せて、席に座る。  新幹線が走り出して、何となく落ち着いた。 「オレ、行きは――――……ほんと、どうしようかと思ってたんですけど」 「うん?」  窓から外を眺めてた先輩が、ふい、とオレを見上げてくる。 「先輩と、1泊とか。ほんと無理って思ってました」 「あー……うん、だよね」  先輩は、苦笑いしながら、オレから目を逸らして。  また窓から外を眺めながら。 「……お前と、こんな感じになるとか――――……」 「――――……」 「……かけらも思わなかった」 「――――……ですよね」 「うん……」  先輩、こっちを見ないで、黙ってる。 「――――……あのさ、三上」 「はい?」 「……さっきさ」  言ったまま、先輩は黙る。  しばらくしてから、ふ、とオレを振り返って、まっすぐ見つめてくる。  隣だから、超至近距離で。 「……迫る期間、とか言ってたけどさ」 「――――……」 「……よく、考えてからに、しろよな?」  また言ってる――――……そうも思ったんだけど。  何だかあまりにまっすぐな視線でオレを見つめるから。 「……はい」  とだけ、頷いた。  すると、先輩は、うん、と微笑んで。 「それで、普通にしようって決めるなら、オレ、ちゃんと受けるから大丈夫だからな?」  何か、まるで仕事の事でも話すみたいに、本当に普通の顔でそんな事、言う。  でも、気づいてねーのかな……。  ちゃんと受けるって。  完全に、受け身。  先輩からは、そう言ってくることは、ないんだって事、だよな。  オレがやっぱりやめたいって言ったら、先輩は、受け入れる。  何だかな。  自分のセリフの意味。  きっと、気づいて無いんだろうな。  ――――……まあいいや。  オレがやめたいっていう可能性、全くないから。  言いたい事言い終えたら気が済んだみたいで、ふ、と笑んで、また流れていく景色を見てる先輩。  ふ、と周りを見回して。  誰も居ない、というか、前方にいくつか後頭部が見えるだけ。  確認してすぐ、先輩の腕を掴んで、オレの方に引いた。 「え」  びっくりした顔をしてる先輩の、唇に、キスして。  何秒か、そのまま。 「――――……大丈夫、誰も見えてないから」 「……っ」  唇を握った手で口を押えて。  赤くなって、何も言わない。 「――――……っあのさ、これ会社でやったら……」 「……やったら?」 「っもう口きかないから」  うわ。……子供かー……。  出てきたことばが、可愛くて笑ってしまう。   「嫌ですよ――――……口きかないとか。もう二度と嫌ですからね」  最後、念を押して笑いながら言うと、先輩は、ぐっと黙って。  「――――……もうあんな事はしないよ」  それを聞いて、オレが、ふ、と笑うと、先輩はふー、と息を付きながら。 「でも会社で、今のしたら――――…… しばらくは、無視するから」 「ええっ! 今しないって言ったじゃないですか」 「今のしたらだって言ってるだろ、もう! 馬鹿三上!」  そこで、ぷ、と笑って、見つめ合う。  なんか、こんなやりとりが楽しくて、笑ってしまう。

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