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第126話◇手を。
ふ、と笑むと。先輩は、む、と笑みを引っ込めた。
「ん?……何ですか?」
「――――……だから、その、見つめて笑うのも、会社ではやめろよな」
そんな言葉に、え、と眉を顰めしまう。
「……なんか、それは無理かも……」
先輩の瞳、見たら、笑っちゃうと思うんだよな……。
「――――……やっぱ、会社では、目あわすのやめよ……」
「なんでそーなるんすか」
はー、と背もたれに沈むと。
「……だって、ほんとバレるよ?」
「別にいーですけど」
見つめ合うと。つい、微笑んでしまって。
「だからそれだよ!」
ぶに!と頬をいきなり摘ままれて、横に伸ばされる。
「ちょ……」
「もうお前、ほんと、会社でオレの事見ンな。分かった?」
「――――……嘘でしょ?」
「ほんと」
「えー……」
「だめ、むり」
そのまま、先輩、また窓の下部分に肘ついて、窓の外を眺めてる。
でもなー、見たら絶対笑っちゃうしなー。
だって、絶対先輩、いつも通りの先輩で、カッコよく仕事しちゃってるんですよね。なんか、オレの前に居る先輩とのギャップに、すげえやられそうだし。
絶対、瞳ぇ、見ちゃって――――……。
見つめあったら、笑っちゃうだろうしなあ。
「……三上?」
窓の方を見てた先輩が、ふ、とこっちを見ていた。
「はい?」
「……何考えてンの?」
「――――……見ちゃいそうだなーって、思ってるだけですよ?」
覗き込んでくるのが可愛く見えて、ふ、と笑いながら、そう言ったら。
「――――……見てもいーけど……あんま、見つめて笑うなよな?」
「――――……」
見てもいい、だって。
かわい。
――――……ちゅ、とキスしてしまった。
「み、かみさぁ……」
「――――…一応向こうから人来ないかは見ましたよ。後ろのドアは開いてないし」
「――――……キスしすぎ」
「……もうしないです」
ほんとかな、みたいな顔でチラ見されて。
先輩はもう一度、背もたれに頭をついた。
「……お前って、すげー自然にキスするよな……」
じっとオレを見上げて、苦笑しながらそんな風に言う。
「先輩だからこんなにしてますけどね……」
「どーかなあ……?」
クスクス笑われて、ますますオレも苦笑い。
そのまま、2人で背もたれに寄っかかる。
「先輩」
「……ん?」
「……今夜一緒に寝ません?」
「――――……寝ない」
「……別れたらきっと、更に明日会うの大変ですよ?」
特に先輩が。
なんか、明日の朝、絶対無視されそうな気がする。
照れまくってて。
想像が容易くて、すこし笑ってしまう。
「今日は何もしませんから」
「――――……何も?」
「……はい」
「――――……ん、考える……」
「――――……」
考えてくれるんだ。
ふ、と笑んでると。
「――――……すこし、寝て良い?」
「いいですよ」
あ、やっぱり。
なんかさっきから、少し眠そうだなって思っていた。
「20分位で起こして?」
「そんな短くていいんですか?」
「ちょっと寝ればすっきりしそう……」
言いながら、小さく、あくび。
「起きたら、話そうな……?」
そう言って、瞳を伏せたと思ったら、あっという間に、すう、と寝息。
――――……昨日、疲れた、よな……。
絶対先輩の方が、体の負担、大きいだろうし。
オレに話しかけながら寝たから、何となくこっち寄りに頭がある。
……あ。そーだ。
さっき脱いだジャケットを、先輩の上からかけて。
少しだけ、先輩寄りに座って、先輩の手に触れる。
ジャケットの下で。手だけ、軽く触れさせて。
オレも、寝たフリ。
全然人もとおんねーし。
別にこれ位見られても、問題ないだろ。
触れてる指が、愛しすぎて。
――――……少し下にある、サラサラの髪の毛。
もっと、触りたい。キスしたい。抱き締めたいけど。
――――……我慢だな……。
軽く息を付いて、目をつむってる内に。
いつの間にか、うとうとしていた。
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