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第131話◇電話の声
先輩と別れて、マンションに帰ってきた。とりあえず洗面所で手を洗って、スーツを脱ぐ。そのまま、シャワーを浴びてすっきりしてから、水を持ってソファに腰かけた。
……あーなんか。
帰ってきちゃったな。
先輩と離れて。
金曜の午後から、2泊して、ついさっきまでずっと一緒で。
「――――……」
なんか、久しぶりに、1人になった気分。
背もたれに寄りかかって、はー、と天井を見上げる。
金曜、家を出た時とは、なんか、全然違う。
男。抱いたんだよなー……。
祥太郎に言ったら、何て言うだろ。
そーいや、チームに居た時、やたら慕われてて、憧れてるっつー、男もいっぱい居て……まあそういう意味じゃないにしろ、憧れてるとか言われるのも、気持ち悪いからやめろ、とか言ってたっけ……。
そんで、当然だけど女ばっかり相手にしてたし。
あれを知ってる祥太郎は、オレが男と、とか言ったら。
なんて言うかちょっと楽しみ。
……今度話してみよ。
ふ、と苦笑いが浮かんでしまう。
あーなんか。
……いますぐにでも、先輩に会いたいなあ……。
今頃、何考えてんだろ。
後悔、してたりするかな。
してそうな気もする……。
……きっと、オレに何てことさせたんだー、とか、そっちの後悔。
なんかそういうような事、よく言ってた気がするし。
最後の、キスもしないとか言う話の時も、あの人。
「散々してもらっといて、ダメっていうのもおかしい……」とかなんとか、言ってた。
ツッコミは入れなかったけど、「してもらっといて」ってなんだよ。と、ちょっと思った。
オレは全部、自分の意志でしたんだし。
してあげた、てよりも。
したかったから、したのに。
いつも、ほんと仕事出来る人だと思ってたし。今も、そう思ってるけど。多分、自分のこういう事に関してだけ、なんか考え方、おかしい。
特にそれが、後輩で男のオレと、だからだと思うけど。
――――……今日は少し離れて、それなりに考えた方がいいかと思って、別れてきたんだけど。
やっぱり、一緒に寝れば良かったかなあ……。
じゃないと、先輩、なかなかオレを信じてくれなそう。
「――――……」
電話。してみようかな。
ソファから立ち上がって、スマホを手に取る。
でもなー。さっき別れたばっかで、明日の朝の約束もしてんのに、電話とか。しかも用もないのに。
なんか 用事ないかな。
スマホを持って、しばらく考える。
つか。こんな事で、電話できなくて考えるって。
いつ以来だ。
自分にちょっと呆れながらもう一度ソファに戻って、横になった。
その瞬間、電話が手の中で鳴り始めて、画面を見ると、先輩の名前。
がばっと起き上がったら、スマホが手から滑り落ちそうになって。
それを何とかキャッチして、慌てて通話ボタンを押した。
「も、しもし? 先輩?」
『――――……うん。そうだけど……大丈夫か?』
「え?」
『なんか慌ててるよね?』
「ああ――――…… 先輩に電話しようと思って持ってたら、先輩から電話が来たんで。ちょっと驚いて暴れてました」
笑いながらそう言うと、黙った先輩が、何だそれ、と笑う。
うわー。
電話で聞く笑い声。
可愛いかも。
これが聞けたなら、今日離れて、良かったかも。
とか、現金な事を考えていたら。
『三上、明日さ』
「はい?」
『朝、会社の休憩室じゃなくてさ』
「ん?」
『朝ごはん、どっかで食べる?』
「どっかって?」
『オレがたまに食べに行くカフェでよければ』
「あ、行きます」
『即答……』
クスクス笑う先輩。
『……なんか、会社で会っても、誰か居たら、話せないからさ。オレが行くとこだと、音楽結構かかってるから、隣の席の会話は聞こえないと思うから』
「どこで会いますか?」
『駅の側だから。駅前で良い?』
「良いです。何時?」
『8時は?』
「分かりました」
『ん、じゃあ明日な?』
なんか切ってしまいそうなので。
「先輩、もう寝る準備しました?」
『うん。したよ』
「もうベッド行きます?」
『うん』
「じゃあ、話しましょうよ。寝るまで」
『――――……さっきまでずっと居たじゃん』
セリフはそんなだけど、声は、楽しそうなので。
「京都、どこが一番良かったか、とか」
『旅行の振り返り?』
「話しませんか?」
『――――……いいよ』
くす、と笑って、先輩がそう言った。
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