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第140話◇楽しすぎて。
察知されて、結局何も言えず。というか、言わず。
だって、夕飯一緒に食べたいしな。
そこからまた少し集中して仕事にとりかかって。
「――――……」
とりあえず、割と急ぎのメールには返信すんだし、連絡も終わったし。
あとはまた午後で良いか。
思いながら、固まった気がする肩を少し回してると。
「三上、一緒に、昼行く?」
「――――……」
先輩の言葉に、オレはまたまた言葉を失って、マジマジと先輩を見つめてしまう。すると、先輩は。
「あのさー」
と、苦笑いを浮かべた。
「もうさ、オレ、お前とずっと普通に話してたじゃん、金曜からさ」
「……はい。そうですね」
「もうさー、何でそこまで、ガン見されなきゃいけないの」
まったくもう、とブツブツ言いながら、先輩はパソコンをスリープモードにした。
「行こ、お昼」
くす、と笑いながら立ち上がった先輩に。
「でもさ、先輩」
「ん?」
笑んだ先輩が、少し首を傾げながら見下ろしてくる。
「旅先の先輩には慣れてたけど――――…… ここで、そんな風に普通に話してくれる先輩には、全然慣れてないんですよ」
そう言って、ふと笑むと。
先輩は、少し、表情を曇らせた。
「――――……ごめ」
「違います。謝ってほしいんじゃないです」
先輩の言葉が容易に予想できたので、遮って。
「慣れてないから、そうやって、笑ってくれるだけでも、すげえ嬉しいっていう話ですよ」
ほんとにただただ、嬉しいってだけなので、そう言ったら。
「……オレもう、ずっと、このままだから」
ふ、と先輩が笑う。
「早く慣れて。――――……いちいち、見られると、照れるから」
「……分かりました」
見つめ合って、微笑んでしまう。
オレも、パソコン落として、立ち上がった。
「食堂行きますか? それとも、外のランチ行きます?」
聞くと、先輩は時計を見て、んー、と少し考えて。
「今外行くと混んでるだろ。まだやること結構あるし。社食行って、さっと食べて戻ろ」
「分かりました」
机の椅子を奥に入れて、先輩と歩き出す。
「今度はどっか食べに行きましょうね?」
「ん。いいよ」
なんか。
全然見慣れない。
ここで見てた2年間の先輩は、オレにはほとんど笑わなかったから。
こんな風に笑いながら、オレを見つめてくれるとか。
しかも、なんか、めっちゃ嬉しそうに笑うしさ。
エレベーターで社食の階に降りる。メニューの前で、一旦立ち止まる。
「何食べます?」
「んー……ぱっと見すごく食べたい物が無いからどうしようかと……」
「いえ、夜」
「え、夜の話?」
先輩がぷ、と笑って、オレを見上げた。
「何でこれから昼なのに、先に夜のこと聞くんだよ」
クスクス笑われて、見つめられる。
「だって、夜何食べたいか決まってるなら、それに近い物は昼は食べないようにしようかなーと」
「ああ。そういうこと……ていうか、全然考えてなかった」
社食は、色んなメニューが置いてある。
麺類、丼は日替わりで1、2種類ずつ。カレーはいつでも置いてあるし。小鉢で野菜とかが数品、白米、みそ汁は単品であるし、それとは別に定食も何種類か。まあ毎日食べても飽きないような感じで作られている。
「昼は食べたいもの食べれば? 違うのを夜食べようよ」
「そうですね」
「て、普通そっちなんじゃないの? 先に昼考えるだろ」
先輩の言葉に、確かにそうですね、と返してから。
すぐ、ああ、と気付いて、先輩を見つめる。
「夜の方が楽しみすぎて、そっち優先で考えちゃったんだと思います」
思うままそう言うと、先輩は、じっとオレを見上げて。
「そんな楽しみ?」
「は? 当たり前」
「――――……」
「つか、先輩は楽しみじゃないです?」
そうなの?と少し心配で、先輩を見てると。
「……楽しみじゃない……」
「――――……」
「ことは、ないけど……」
がく。
――――……何その、答え方。
ツッコみいれようかと思ったけど、その前に、ぷ、と吹き出してしまう。
「ほんと、可愛いですね、先輩って」
まわりに人が居なかったのを良い事に、こそ、と囁いて。
トレイや箸から準備を始めると。
「――――……夜、無くなるからな」
なんかちょっと怒ったような顔で、呟く先輩。
「あー嘘嘘。今のなし。――――……って、嘘ではないですけど」
「三上……」
はー、とため息の先輩。
なんだか、やりとりが 楽しくて、全然止まらない自分に、苦笑いが浮かぶ。
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