151 / 273
第151話◇幼く見える
「先輩、オレは兄貴の事なんか、どーでもいいんですけど」
「――――……」
「まだオレ、この2年間のことめっちゃ文句言いたいし」
そう言うと、先輩、ものすごい苦笑い。
「それに関してはオレも引き受けたし、何も言えないから……」
「先輩はもー良いです。惚れた弱みっつーか、もう完璧許してるというか、何とも思ってないです。元凶は兄貴です」
オレの言葉に、先輩はオレをじっと見てから。
「……一応、志樹も、お前の事思ってたんだと……」
「あれはね、先輩。オレを思ってたんじゃなくて、オレの気持ちを無視して、ただひたすらに仕事を詰め込みたかっただけです」
「……だから……認められてるだろ、三上。今。部長とかもよく褒めてるよ」
ふ、と先輩が笑う。
――――……うん。今、先輩がそうやって認めてくれてるのは、
ただ、ひたすらに嬉しい。
けど、兄貴のおかげとは、言いたくない。
「それになんか、許可とるとか、オレはオレの事だから、そんなことしなくていいですよ」
「でもさ。オレ元々、志樹の方が先に知り合って、友達な訳じゃん……?」
「そんなに兄貴の事、気になりますか?」
むー、とため息を付いていると。
「え。何その質問」
先輩がキョトンとしてオレを見る。
「オレとの話でしょ? 兄貴、どーでもいいですって」
「――――……別にオレ、志樹の方が大事だとか、そんなこと言ってないよね?」
「そうですけど……」
「……なんか三上、よく分かんないけど……」
ぷ、と先輩が笑う。
「妬いてるんなら、全然違う話だけど……」
「――――……」
……え、オレこれ妬いてんの?
いやいや、むかつくだけで……。
何だかよく分かんなくなってきた所で、先輩はうーん、と考えながら続ける。
「許可って言っても……許可って言い方がいけないのか。とにかく、一応話、通さないとって、思うんだけど……違う?」
「――――……」
「兄貴の方と先に友達でさ、例えばその後、妹ともしかしてって時だって、普通に話すよね?」
「――――……まあ」
「それと一緒なんだけど……でも、弟だし、付き合う前に色々……っていうのが」
「……まあ分かりますけど」
「しかもなーマンツーマンの後輩……」
と言いながら、先輩は、オレをじっと見つめてくる。
「なんかオレ、志樹に話すのが一番きついかもな……むしろ部長とかなら言えるかも。あ、そーなんだって言ってくれそう」
めちゃくちゃ苦笑いで、先輩が言う。
ああ、部長。確かに言いそう。へらへら適当な感じするもんな。
……何で部長なんだろ。まあ。仕事ン時は人変わるか……。
……兄貴って、先輩にとって相当強敵か。
「あ。先輩、次何飲みます?」
「なんか甘いやつが良い」
「祥太郎に任せていいです?」
「うん」
「了解です」
立ち上がって、祥太郎の所に近付く。目の前の椅子が空いてたのでそこに座った。
「祥太郎、なんか甘いの、2種類作って」
「了解ーていうかお前も甘いの?」
「先輩に好きな方あげるから」
「――――……はいはい」
呆れたように笑ってから、頷く。
グラスを出して来て酒を作りながら、祥太郎がオレを見てくる。
「――――……好きなのは、分かった」
祥太郎が呆れたように笑う。
「チラ見してるだけでも、駄々洩れすぎ。見つめすぎ。笑いすぎ。お前、バレても良いと思ってんだろ」
「んな事いっても今、他に誰もオレら見えるとこに居なかったし。会社だともう少しは隠してたぞ」
「つか、オレは居たけどな」
「お前どーでもいい」
「お前なー……」
祥太郎は、苦笑いしながら。
「つか、デカい会社なんだからなるべくバレない方が良さそうだからな。そっちは気をつけろよ?」
「分かってる」
返事をしながら祥太郎の手元を見ていたら。
「――――……あの人は、志樹さんと来てた時とは大分雰囲気違うな」
そんな風に祥太郎が言い、オレは、首を傾げた。
「……そうなのか? どう違う?」
「んー……なんか、お前と居ると、幼く見える」
……ああ、なんか。ちょっと分かる気がする。
オレと居る先輩、たまにすげー可愛いもんな。
ともだちにシェアしよう!