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第152話◇こんなのも

 祥太郎から受け取ったグラスを、先輩の前に並べる。 「先輩、どっちがいいです?」 「三上は?」 「飲んで好きな方取って」 「――――……他の奴にも、そーすんの?」 「こんな渡し方しないですよ。飲んでからとか嫌ですし」  苦笑い。 「先輩だからに決まってますよね」  オレがそう言うと、先輩はまたじっとオレを見つめる。 「――――……お前ってさ」 「はい」 「恥ずかしいよな……」  しみじみ言われる。 「……もーいいからどっちか決めてください」 「ん」  クスクス笑って、先輩は一口ずつ飲んだ。 「こっちのが甘い」  そう言って、オレンジ色の方を手に取った。 「酒も食べ物も、ほんと美味しいよね」 「それは良かったです」  幸せそうな表情に、ぷ、と笑ってしまう。 「――――……あのさ、三上?」 「はい」 「……オレ、お前の事好きって、言ったろ?」 「――――……」  不意に視線が絡んで、そんな台詞にどき、として。黙って頷く。 「……好きだし、お前が今言ってくれてるのも……そうなんだろうなって信じてるし……だから自分でも……何で、OKだせないのか……考えてるとよく分からなくなってくるんだけど……」 「――――……はい」 「……とりあえず、志樹の事はずっと言わなきゃって、頭にあるし……」 「――――……」 「……あとは、ほんとに、お前、それでいいのかなあって……事、かな」 「――――……」  言い終えると先輩は、ちょっと困ったように、ふ、と瞳を緩めて笑った。 「ごめんな、よく、分かんなくて」  オレは、何かほんと、先輩らしいなと思ってしまって。  くす、と笑ってしまった。 「いーですよ。……とりあえず兄貴クリアしましょ」 「……ん」 「で、オレがいいかってのは……良いに決まってるんですけど」 「――――……」 「信じれたら、で良いですよ。別に、今日明日返事してくれとか焦ってる訳じゃないし――――…… 返事貰えるまでも、こんな風に一緒に居てくれます?」 「――――……」  先輩が、オレを見つめたまま、頷く。 「オレが口説くのも、ありですか?」 「――――……」  ちょっと困った顔をしながら。でも、小さく、頷く。  なんかこういう感じが、幼く見えて、可愛いんだろうなあと、ふ、と笑ってしまう。  会社で仕事してる時と、全然違う。 「じゃあオレ結構楽しいんで。しかも今、オレの事好きって言ったし、先輩」 「――――……」  何度かパチパチと瞬きしてから、先輩、少し俯いて、うん、と、頷いた。 「迫るし。好きな事言うと思うし。――――……調子ん乗って、好きな事、しちゃうかもですけど」 「――――……」  最後の所、俯いてた顔がこっちをマジマジ見て来てるけど。  ぷ、と笑ってしまう。 「――――……嫌だったら止めて下さい」  そう言うと、なんか先輩、すごく照れてるし。  ――――……許されるなら、いますぐ抱き締めて、キスして、乱したいなあとも思うけど。  なんかこんなやり取りしてンのも、心底楽しいというか。  ――――……そもそも「普通」ではない始まりと関係だし。  なんか、先輩とだから、こんな感じをしばらく楽しむのもありだなあと思ってしまう。  ――――……ていうか。  さっき、普通に、好きって言ってくれてるしな。  そんな言葉だけで、こんな嬉しくて、気分舞い上がるとか。  いつぶりなんだろう。と、自分でも不思議。

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