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第153話◇「恋愛」

「あとさ、先輩」 「……?」 「女の子とかと、楽しんでからーとか言ってましたよね」 「うん」 「オレ、それ、考えたんですけど」 「……うん?」  先輩は少し不思議そうにオレを見あげた。 「オレね、割と、楽しんでここまで生きてきてるんですよね。そういう風に、見えません?」 「――――……見えるけど」  ちょっと眉を顰められる。  オレは苦笑いで。  だって、これでちょっと眉が寄るとか。  ……ヤキモチかなって思うから。 「……怒んないでくださいよ。だから――――……先輩が色んな人と付き合ったりしてきて、なんかその気にならなくなってきたとか言ってるの同じように、オレも、色々経験してきてるって事です」 「――――……そうだろうけど」  ますます、ちょっとムッとしてる。  先輩の腕を軽く掴んで、自分の方に向ける。 「だからね、先輩」 「――――……」 「今から改めて楽しまなくても、全然大丈夫って事なんですけど、分かってもらえます?」  そう言うと。  先輩は、ちょっとだけ困った顔をして。 「掴んでるの変だから」  と、オレの手をちょっと離させてから。 「――――……」  それでも、しばらくマジマジ見つめ続けていると。  ――――……先輩は、ぷ、と笑い出した。 「……もう――――……ほんと、三上ってさあ……」 「何で笑うんですか」 「だってすごいまじめな顔で何言うのかと思ったら……」  クスクス笑う先輩は、もう、ほんと、可愛くて。 「ほんとにそれでいいの?」 「……いいですけど。ていうか、むしろ遊んでこいとか言われると、ムカつきますけど」 「――――……」 「……オレが遊んでもいいんだって、思うと、すこし――――……つか、かなり嫌ですけど」  そう言うと。  先輩は、んー……と考え込んでる。 「そうなるとさあ……」 「……はい?」 「……オレ達が、そうなるのの障害は、志樹だけになっちゃうけど」 「そこ、障害として認識すんのやめません? マジでどーでもいいんですけど…… オレの恋愛に兄貴絡めないでくださいよ」 「恋愛――――……れんあいって……」 「え?」  先輩が呟いてから、ふい、とそっぽを向いてしまう。 「え、何?」  顔、覗き込もうとするけど、覗けない。 「先輩?」 「――――……なんか、恋愛とか、言うのやめて、恥ずいから」  肘をついて、その手で口元を隠して、先輩は顔背けたまんま。  ――――……なんかもう、脱力する。  可愛すぎるんだけど。  何でこんなに、疎いんだろう。  ――――……どーやって生きてきたら、その見た目で、こんな感じでここまで来れるんだろうか。飽きちゃう位に、それなりに付き合ってきてるんだろうけど。謎すぎるな、先輩。  ずーっと、このまんまな感じを守って、一緒に生きていけたらいいなと、ふと浮かぶ。  汚さないように、傷つけないように、守りたいなとか。  ものすごい、思ってしまう。

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