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第160話◇相性
「食べたら、オレんち行きませんか、陽斗さん」
「――――……無理」
「いつなら無理じゃないです?」
「……分かんない」
――――……はは。
なんか、子供みたいな、受け答えに、笑んでしまう。
どーしてこんなに可愛いかな。
「帰って、オレと――――……キスしませんか?」
「――――……」
先輩は、オレのその言葉に、ぴしっと。固まっていたけれど。
数秒後、ゆっくり顔を上げた。
「……ごめん、オレ……」
「謝んなくて良いですってば」
「――――……でも、お前にしないでって、言ってるのに」
言ったきり、心底困った顔で、ちょっと俯いてる。
「言ってるのに、どうして、しちゃったんですか?」
そう聞くと。
オレを、ぱっと見て――――……少し口を噤んでから。
「……なんか三上が色々言ってるの聞いてたら……」
「うん」
「――――……したくなった、としか、言えない。……ほんと、ごめん」
先輩は、そんな風に謝るけれど。
つか。それ。
謝る必要が、一切ないから。
というかむしろ。
こんなとこで、絶対キスなんかしそうにないこの人が。
オレにはキスしないでって言ってる、先輩が。
キスしたくなって、しちゃったとか。
謝る必要なんかないって。
オレにとって、すげえ嬉しい事だって、思わねえのかな。
…………思わないか。
先輩だもんな……。
……きっと、オレにはキスすんなとか言ってるのに、勝手にしちゃって、ほんとにどうしよう、ごめんなさいとか、きっと、本気で思ってるんだろうな。
……つかもう――――……。
オレ、今まで自分が、こういう感じの人を好きだなんて、あんまり思った事がなかった……というか、考えた事もなかったんだけど。
あらゆる反応と、セリフと、態度が。
ことごとく、ツボすぎて。でもって、見た目は、超、キレイで。色々可愛くて。
もー無理なんですけど――――……。
「……陽斗さん」
「――――……」
「……オレの事、好きなら、もう何も考えなくて、良くないです?」
「――――……」
先輩はオレの言葉に少し俯いて。
「……もうほんと。……モテる奴の言う台詞だよな」
なんか、むくれている。
ていうか、あんただって、絶対モテただろうに。
――――……。
……つか、オレこんな事、今まで誰にも言ってないから。
こんな必死で、何度も好きって言ったり、口説いたりした事も、無いし。
「オレ、こんな風なセリフ吐くのも、はっきり言って、あんま記憶にないですけど」
「――――……」
「……こんなに好きって思うのも、って、言ってますよね」
そう言うと。
先輩は何を思ったか、アルコールのグラスを持って。
ぐびぐびぐびぐび、と一気飲み。
「え。……何してンですか?」
「……景気づけ」
「景気づけ? 何の……」
「――――……お前んち、行く」
「え」
え。来てくれンの?
今の状態じゃ来ねえよなと思いながらの誘いだったけど。
と思ったら。
先輩は、じっと、オレを見つめて。
「……でも、まだどうするか決めてない。ここだと、普通に話せないから。行くだけ。 ……それでも、良い?」
「……ん。分かりました。大丈夫。無理にしたりはしないから」
「――――……」
何か、呟く先輩。
「え? 何ですか?」
「――――……むしろ無理にされたら、もっと、嫌がれるのに」
「――――……」
……え。どういう意味?
――――……無理にされたら嫌がれるのに?
「……無理にしないから、嫌がれないの?」
聞いてみたら。返事はしないけど、否定もしない。
「……はは。何それ」
可愛くて、笑ってしまう。
優しくされるのに、弱いなあ。この人。
本人も、気づいてなさそうだけど、可愛がられたい願望が、ありそう。
――――……でもって、それが可愛くて、めちゃくちゃ優しくしたいオレ。
……相性、すげえいいと、思うんだけど。
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