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第162話◇提案

 会計は今日は大体半分ずつって事にして、支払いを済ませた。  「また来てくださいね、渡瀬さん」と先輩と挨拶を済ませた後、オレを見て面白そうな顔をしてる祥太郎と、明後日な、と別れて、店を出た。  すげー明後日、めちゃくちゃ聞かれそう。  ふーとため息を付いていると。 「明後日も行くの?」  先輩がオレを見上げて言う。 「さっき約束して。……陽斗さんは兄貴とご飯でしょ」 「うん。……オレのはご飯て感じの楽しいのかどうかは、謎だけど」  うーん、とまた悩んでるのが、ちょっと面白くて笑ってしまう。 「またなんか笑ってるし」 「だって、すごい嫌そうだから」 「だって……」  はーーと、ため息を付いている。 「……あ、三上。今から行くと、遅くなっちゃうから、やっぱりやめよーかな。明日も会社だしさ」 「え。嘘でしょ。無理」 「無理って……」  言いながら、先輩は笑って。 「でもなー……」  時計を見て、考えてるっぽい。このままだと、やっぱりやめようとか言って無くなってしまいそうで、ちょっと焦って、色々考えて。 「あ、そうだ。そしたら、オレんち泊まりません?」 「え」  そう聞いたら、何か、思い切り引かれた。 「……あ。変な事しようって事じゃないですよ。今からオレん家に行って、話してから帰るとか、確かに遅くなって心配だし」 「……オレ、男だけど」 「男でも、キレイなので心配です」 「もーお前……」 「なんなら陽斗さんの家寄って明日のスーツ取って、オレんち行きませんか? あと、パン屋で明日の朝のパン買って……」 「――――……」  良い事思いついたとばかりにあれこれ言っていたら。  先輩、ぷ、と笑い出した。 「なんか、そんなすごい楽しそうに言われると、そうしたくなっちゃうじゃんか」 「え、いいの?」 「……っと……」  ……何も考えずにまた、言ったな。  ――――……オレが、逆にびっくりすると、先輩は、はっと気づいたみたいに、黙った。  ――――……てもう、これでオレが引く訳ないよね。 「そうしましょうよ。まず、陽斗さんち行こ」 「――――……マジで言ってる?」 「マジです。そうしようよ、うちに布団、ひとつはあるから、寝るとこありますよ」 「――――……」 「一緒に寝ようなんて、言いませんから。ね? ベッドと布団並べて、話しましょ」  あれこれ並べ立てていると、困ってた先輩は。 「分かった。泊まる、けど……」  暫くして、ついに、折れた。 「変なことしないて、約束して」 「うん。します」 「……って、オレさっき、変なことしといて、何なんだよって、とこだけど……」  1人で自虐な事言って俯いてて、すげー面白いけど、とりあえずそこはスルー。 「大丈夫、オレは、陽斗さんが困る事は、しないって約束します」 「――――……」  しばし無言でオレを見つめると。  分かった、と先輩。  やった。  一晩、陽斗さんと一緒。  すっげぇ嬉しい。

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