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第163話◇楽しみ

 先輩は、オレを見上げて。 「……オレんち、一緒に来るの? それとも、準備出来たら、三上んち行けばいい?」  そう聞いてきた。 「陽斗さんち行っていいなら、ついてきます」 「狭いよ?」 「関係ないですけど」 「んー……三上が面倒じゃないなら良いけど」  はー。分かってないな。  面倒な訳ないじゃん、つーか、すげー行ってみたいっつーの。  どんなとこで暮らしてるのかなとか、どんな部屋なのかなとか、  色々気になるし。 そういうの、分かんないのかなー。  先輩は、思わないのかな。 「……先、パン屋さん行こ、もうすぐ閉まるかも」  先輩はオレにそう言って、歩き始める。  その隣に並ぶと、先輩が、ふ、とオレを見上げる。 「明日三上んちでパン食べて、一緒に出社するって事だよね?」 「うん。そのつもりですけど。ダメですか?」 「ダメじゃないけどさ」 「……けど?」  何だろう、ダメじゃない、けど。  先輩を見つめていると。 「……なんかさあ?」 「はい」 「家、行き来して泊まって、とかってさ」 「はい」 「……なんかすごく特別な感じするけど……いいのかな?」 「――――……」  ……だから、オレは、めちゃくちゃ特別になりたいんですけど。  いいのかなあって……。  聞かれるとこじゃないんだけどな。  うーん、と少し悩んでいると。  先輩は、じっと オレを見上げて。 「……やっぱり、良くない?」  ちょっと返事に困っていただけなのに。そんな風に聞いてくる。  ていうか、無言を、そっちに受け取る?  やっぱり、なんか、基本、分かってないよなあ。  オレがこんなに好きって言ってるの、たまにどっか、飛んでっちゃうのは一体何故なんだろうか。   「――――……んな訳ないでしょ、陽斗さん」  もう、苦笑いしか浮かばない。 「陽斗さんの特別になりたいし、オレの特別にもなってほしいし。……つーか、もう、陽斗さんだけが特別って、オレ、結構ずっとそんなような事、言ってると思うんですけど……」 「――――……」  先輩は、じーっとオレを見上げてくる。 「大体、特別だと思ってない人、何で家に誘うんですかオレ。しないですよ」  そう言うと。「そっか……」と呟いて。  なんか。ちょっと嬉しそうな顔で微笑みながら、オレを見上げてくる。 「三上んちって、どんな感じなんだろ」 「――――……」 「なんか、どんな風に暮らしてんのか、ちょっと楽しみかもしれない」  もうほんと。  ……なんでこんなに可愛いんだろう、この人。    一体何回、オレに、可愛いって思わせるんだろうか。  口開くと、不思議な事、言う時あるけど。……ていうかしょっちゅう、不思議だけど。  表情とか、とっさの言葉とか。  ――――……好いてくれてるんだろうなと。思う事、ぽろぽろしてくるし。  可愛くて、しょーがないんですけど。

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