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第167話◇欲しい答え

 なんかすごく、緊張してるというのか。  言葉に躊躇ってるというのか。  そんな先輩を、胡坐から姿勢を正してちゃんと座ってから。  その言葉を待ちながら、考える。  思えば、先週の金曜日。午後から、急に2人での出張になって。  その時は、本当に、冗談じゃないと思ってた。  オレの入社と同時に、先輩がオレの教育係になってから2年間。  ずっと、ムカつくって思ってたし。  綺麗なのは分かってたし、仕事の教え方はほんとに丁寧で上手で。  他の奴に優しいのも、良い人なのも、分かってはいて。  けど。だから余計、オレへの態度がムカつくって、思ってた。  色々打ち解けてから、金土と、一緒に夜を過ごして。  日曜もずっと一緒で。月曜の今日は朝から待ち合せて、夕飯も一緒に食べて。で、オレの家に、先輩が、泊りに来て。  ……濃密すぎた。この4日間。  それまで、仕事以外ほぼ関わりなかったのに、いきなり、この4日間、どんな奴より、ずっと側に居た気がする。  が、しかし。  先輩みたいな人が、覚悟を決めるには、ちょっと、短すぎるんだろうなと。  何となく、思ってしまう。  オレは、わりと適当というか、割り切り方が、ざっくりしてて。  男同士とか、会社の先輩だとか、兄貴が絡んでその親友だとか。  なんかそこらへんも全部、そこまで気にならない。  どうでもいいと、一旦割り切ったらもう関係ない。  先輩が可愛くて、側に居たくて、今までの誰より好きなんだから、  もうそれでいいと思ってしまう。  でも多分、先輩はそういうタイプじゃなさそう……。  男同士とか、会社の後輩だとか、兄貴が絡んでその弟だとか。  ここらへん、気にしないようにと一旦決めたとしても、また後から引っ張り出してきて気にするタイプ。  まあでも、常識的、なのかも。  オレの割り切り方が、適当すぎるだけかもしれないから、そこは、分かる。  それに多分、先輩のが、荷が重いみたいな気がする。  職場の後輩なのに、何させてるんだ、とか。  そんな風にさせちゃっていいのか、とか。  志樹の弟なのに、とか。  何かそういうこと、何回も言ってるし。  オレよりは、考える事が多そうなんだよね……。 「あのさ、三上」 「はい?」  やっと話し出した。  一言答えて、黙っていると。 「……オレ、お前の事は、好きなんだと思う」 「うん」 「お前がオレを好き、て言ってくれてる事も、オレ、今は信じてると思う。適当に言ってるとか、からかってるとか、は思ってない」 「ん」 「志樹も……明日話すけど、今の感じだと、なんかほんとに好きに決めろ的な感じだったし…… だから、これ、普通なら、もう――――……付き合うって、答えるところだと思うんだけど」 「うん」  思うんだけど。  だけど。 「――――……何でオレ、いいよって言えないんだろう」 「――――……」  ――――……すっごく困った顔で、見上げられてしまった。  ……ああもう。  ――――……可愛いなあ。  オレは、苦笑いが浮かびそうになるのを堪えながら。  ベッドから降りて、先輩の、隣に膝で立って。  ぎゅ、と抱き寄せてみた。 「……こうされるの嫌ですか?」 「――――……」  首を横に振る。 「キスするのは?」 「……オレ、自分からした位だから」  そんな答えに、クスクス笑ってしまう。 「じゃあ、体に触られるのは、嫌ですか? あ、今触らないですよ。嫌かどうかだけ、考えてください」 「――――……」 「嫌?」  また、先輩は、首を横に振る。 「抱かれる、のは?」 「――――…………嫌じゃなかった、よ」  抱き締められたままの先輩が、オレの腕の中で俯きながら、答える。 「……陽斗さんの中で、男と付き合う事は、無しですか?」 「――――……」 「世間体とか、家族とか、もうそういう気になる事全部ひっくるめて、結論的に、無理ですか? それとも、オレと、付き合っていけるなら、ありかなと思いますか?」 「……あり、じゃなかったら、考えてないよ」  そんな答えに、ふ、と笑ってしまう。  もう、これ、答えてくれてる内に、  完全に答え、出てると思うんだけどな。  先輩の答えって、全部オレの欲しい答えだし。

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