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第168話◇一ヶ月
「……それでも、今は、いいよって言えませんか?」
「――――……三上、この先ほんとにそれでいいのかなって……今は良いって言うんだろうけど。なんか…… 覚悟決めて付き合って――――…… やっぱり無理って言われるの、キツイし」
おお? なんか。
――――……少し、今までと違う事も言ったな。
………なるほど。
オレを、完全に信じられてないってことか。
先輩にとっては、4日間で超盛り上がったみたいな関係だからかなー……。
――――……ああ、そっか。期間が短すぎるから、多分いけないんだから。
てことは。
「あのさ、陽斗さん」
「……ん?」
オレは、抱き締めていた腕を解いて、先輩を少し離して、真正面から見つめた。
「ちょっと提案、なんですけど」
「うん」
「オレ達、こうなってからまだ4日しか経ってないので、ちょっと急ぎすぎな気もするんですよね。陽斗さんが迷うのも分かるので」
「ん……?」
「なので、とりあえず1か月、付き合ってみませんか?」
「――――……1カ月??」
「オレはめいっぱい先輩の恋人で居るので。ある意味、試用期間、みたいな。本採用するかは、先輩が決めてください」
「――――……何それ?」
ものすごーく、戸惑っている。
「今、無理に、いいよって言ってもらうのも、なんか違う気がするんですよね」
「――――……」
「とりあえず、1か月、オレと恋人になったら、こんなに楽しいですよプレゼンをしていくので。――――……そうしながら、考えてくれませんか?」
「――――……今の状態と何が違うの?」
「今は保留中でしょ? そうじゃなくて、関係は、恋人。かっこ試用期間、て感じで」
「――――……」
「陽斗さんは、ほんとにいいのかなあとか言ってるけど、それってこのまま、ずっと付き合うっていう覚悟が出来ないんでしょ?」
「――――……ん……」
「だから、陽斗さんが今オッケイしてくれるのは、1カ月に限って、て事で。1カ月恋人として過ごして……そしたら4日間じゃ見えないことも見えるでしょうし」
「――――……」
「1カ月のOKなら、そんなに考えずに、出せませんか?」
「……そんなんで良いの?」
「提案してんのオレですからね。良いに決まってます」
「……でも、なんかそれだと、オレが決めるとかって、三上ばっかり、試されてるみたいで嫌なんだけど」
先輩がそんな風に言って、少し考えてから。
「……じゃあ、お互い、試用期間にしよう?」
「お互いですか?」
「うん」
「んー……」
――――…………オレには、要らないんだけどなあ、先輩の試用期間。
無くても分かってるのに。
「あと、違うってなったら。ただの仕事の関係に戻るってこと?」
「……いや。そうじゃ、なくて……んー……」
そんな事にするつもりは、一切ないけど。
オレは、ただ、先輩に時間をあげたいだけだし。
好きって思ってくれてるけど、いいのかなって迷う気持ちは分かるから。
恋人として過ごしてる間に、
オレと恋人になっても良いって、思ってもらうつもりだし。
一緒に、時間過ごすのに、いちいち理由をつけなくてもよくなるし。
とりあえず1カ月、でも。
保留の状態で悩ませるよりは、「恋人だから」で過ごせた方が、絶対良いと思うから、言ってるだけだし。
「お互い好きって思ってるのに、遠い先の事考えて一緒に居れないなら、期間区切って考えてみましょう、って話です。1カ月後どうするかはまた、考えましょう?」
「――――……」
先輩はしばらく、黙ってオレを見上げていたけれど。
「……分かった」
と、頷いた。
「じゃあ、陽斗さん」
「――――……」
「今から『恋人』ですよ? いいですか?」
「――――……」
じーっとオレを見て。
「うん。いいよ。とりあえず、1カ月、な?」
「ん。楽しく過ごしましょうね」
そう言うと。先輩はオレを見て。ん、と顔を綻ばせた。
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