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第169話◇手順を

 少しほっとしたみたいな笑顔。  可愛いなあと思いながら。 「――――……ね、陽斗さん。蒼生って呼びません?」 「え」 「蒼生って呼んでほしいですけど」 「――――……」  先輩は、みるみる赤くなって。  ぱ、と手で口元隠して、顔を背けてしまう。 「……まだ無理。ごめん」 「……抱いてる時は、呼んでくれたのになー」 「――――……だから余計、無理」 「兄貴のことは呼び捨てなのに?」 「……なんか、それとは、全然違う」  まあ。一緒だったら困るけど。  これは、呼んで貰えそうにないかなあと。  むー、と黙っていると。 「……今度頑張ってみる」  って。  ――――……すげえ、可愛い答えが返って来た。  思わず、そっと、頬に触れてしまう。  ほんと、可愛い。  そこで、はっと気づいた。 「三上?」  そーと、手を離すと、先輩が不思議そうにオレを見上げた。 「あのね、陽斗さん、先に聞いておきたいんですけど」 「……うん?」 「触るのとか。キスとか。その他諸々。どうしたらいいですか?」 「――――……その他諸々って……」  先輩は、クスクス笑って、オレを見つめる。 「……どうしよっか? 三上、どうしたい?」 「陽斗さんがどうしたいかに合わせますよ?」  そう言ったら、んー、と先輩が唸りだした。 「1カ月はプラトニックな恋人同士って事でもいいですよ?」 「――――……」  先輩は、うん、と頷いたのだけれど。そのまま、少し考えて。  すぐに、ふと、顔を上げた。 「でもオレ達って、もう――――……いろんなこと、しちゃってる、よな?」 「――――……そう、ですね」 「……んー…… じゃあさ」 「はい」 「それも、ちょっとずつ、してく、ていうのは?」 「――――……」 「あの日、一気に、だったし」  そんな言葉に、オレはふ、と笑ってしまった。 「――――……じゃあ、ちょっとずつ進んで、お互いOKならありって事で、良いんですか?」  先輩は、少し恥ずかしそうにオレを見るけれど。 「恋人って言ってるのに、そこだめっていうの、変じゃない? 三上、やだろ?」 「――――……陽斗さんがいいなら、そうします」  そう言うと、また少し、考えてから。 「良いよ。普通に込みで。1ケ月」  ふ、と笑む先輩。  ――――……なんだかなあ。  思い切りが、良いのか悪いのか。  1カ月、てなると、割り切れるし思い切れるのかな。  ………ていうか、「三上、やだろ?」って。  結局、オレに、甘いのかな、この人。  オレは、目の前の先輩の頬に触れて、そして、そのまま、抱き寄せた。 「――――……手順、踏んでる? これ」  クスクス、先輩の笑う声。 「うん。これが、手順1ですね」 「――――……手つなぐとか。じゃないの?」  そうは言うけど、先輩は、抱き締められるまま笑ってるし。 「――――……」  ちゅ、と頬にキスすると。 「………今日はここまでにします。手順、踏むので」  オレも笑いながらそう言うと。  ん、と先輩も笑って、手を背中に回して、ポンポン、と叩いてくる。 「……三上」 「はい?」 「――――……ありがと」 「え」 「なんかオレが――――……はっきりしないだけなのに」 「――――……」 「色々考えてくれて」  ぎゅ、と抱き付かれて。  ――――……うわ。やば。 「ありがと」  腕の中でそんな風に言われて。  可愛すぎ、なんて思った瞬間。  かあっと、熱くなって。 「――――……」  何いまさら、こんな事でオレ、赤くなってンの――――……。  ぐったりして、先輩を、むぎゅ、と抱き締める。 「――――……陽斗さん、すげー好き」 「え」  顔見られないように、抱き締めたまましばらく離さないでいると。 「三上?」  クスクス笑われて、名を呼ばれる。  あーもう。  ――――……なんか、ほんと好き。   

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