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第178話◇好きだな

 先に顔を洗ってから先輩にタオルを渡して、オレはキッチンで朝食の準備。コーヒーメーカーをセットしてから、昨日買ったパンを少しだけトースターで温める。それから、皿にのせてテーブルに並べていく。  ――――……先輩がここに居て、一緒に朝ごはん食べるとか。  すげー嬉しいんだけど。  抑えようとしても、何か鼻歌でも歌ってしまいそうな気分。  1人の朝は、ほんと、何ごともなく、ひたすら静かなのに。  先輩が居ると思うだけで、ヤバい位、浮足立つ感じ。   「三上、手伝う?」  戻って来た先輩は、オレの隣に歩いてきた。 「陽斗さん、スープ飲みます?」 「ううん。オレは良いや」 「じゃあもうコーヒー淹れるだけなんで。座っててくれても良いですけど」 「うん……ん? けど?」  一瞬、テーブルに行こうとした先輩が、オレを振り返って、見上げてくる。 「横に、居てくれても良いですよ?」 「――――……」  先輩は、まじまじとオレを見つめて。  ふわ、と笑んだ。 「何それ。……三上、可愛い」  あんまりキレイに笑うので。  ついつい見惚れてると。  少しだけ歩いて離れてた所から、オレの隣に並んで立った。  可愛いのは、そっち。  そんな事を思いながら、コーヒーメーカーに目を向けると、あと少しでコーヒー、出来上がりそう。 「コーヒー、いい匂い」  先輩の、柔らかい、声。  可愛い。 「――――……」  少し下にある、先輩の唇。  身をかがめて、唇で、触れた。  少し重ねて。  すぐに離れようと思ったけど、惜しくて、もう一度、重ねてから離れた。 「――――……」  何も言わずにじっとオレを見つめる先輩。 「――――……陽斗さん?」 「キスの、仕方が…… タラシそのものなんだけど」  言いながら、少し赤くなって、ふい、と逆側を向いてしまった。  顔が、見えない。 「タラシタラシ言わないでよ」  肩を抱いて、こっちに向けさせて。 「こんな事、今までしてないよ」 「――――……」  まっすぐ見つめると、先輩は、何も言わず、眉を少し寄せてオレを見る。 「……もう、ほんとお前――――……」  はあ、とため息の先輩が俯いてしまった。 「?」  ほんとお前、何?  そう思ってると、不意に顔を上げた先輩が。  両手でオレの顔を挟んで、少し自分の方に引き寄せて。  ゆっくり、唇を重ねてきた。 「――――……」  オレがしたみたいな、優しいキス。 「……朝から、タラすな」   キスを離してから。  オレの髪をワシャワシャとかき混ぜて。「もー何すんの……」と、髪を直してるオレを見ると。 ――――…… ふわ、と微笑む。  なんか、もうすごく好きだな。  そう思っていると。  ピピ、とコーヒーが出来上がった音。  カップに注ぐと。   「ますますイイ匂い」  先輩が、隣でそう言うので。 「………ここ来てくれれば、毎日淹れますよ?」 「――――……」  またしばらく固まってから。  先輩は、苦笑いで。「考えとく」と言った。

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