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第187話◇side*陽斗 6

「ありがとうございます」  三上が嬉しそうに笑って、オレの手からドライヤーを受け取って、片づける。 「陽斗さん、コーヒーとか、飲む?」 「んー……三上、飲みたい?」 「うん」 「じゃあ一緒に飲む」 「りょーかい。入れるね」  言いながら、三上が先に洗面所を出て行く。  あとを歩きながら。  ――――……さっきまで1人だったから。なんだか、三上が居て、嬉しいと思ってしまう自分が。何だかすごく、ウキウキしてて。  はー。なんか。  オレ。中高生とか、みたい。  何でこんなときめいてんの。  あの頃、そんなにときめかずに生きてきて、こんな年取ってから、こんな年下の男に……。  はー。  ――――……困る。ほんと。 「先輩、夜何食べました?」  三上がコーヒーを淹れる準備をしながら、隣に立ったオレを見下ろす。 「んーと……あ、麻婆豆腐」 「いつも行く、定食屋さん?」 「うん。そう」 「今度連れてってください」  明るい笑顔に、いいよ、と頷く。  ……うん。何か何も、断れる気がしない。 「オレらの話し合いはね。とりあえず何年か前の出し物をリメイクというか、ゼロからじゃなくていいよねって話になってさ」 「あぁ。いいんじゃない? 誰も覚えてないよ」 「ですよね? 多少覚えてる人が居ても、別に文句は言われないかなって話になって」 「うん。言わない」 「もうオレ、なるべく時間とられないように頑張るんで」 「ん?」 「だってオレ、陽斗さんと居たいし」 「んーでも三上、指導の準備もしなきゃいけないし。忙しいね、4月半ばまでは」 「……そーですけど。でも、何とか就業時間内でなるべく頑張るので」 「――――……ので??」 「オレと、居てね、陽斗さん」  コーヒーを淹れる手を少し止めて、オレをまっすぐ見つめる。 「――――……っ」  なんか。顔に熱が集まりそうで。  ……思わず、俯いてしまう。 「……陽斗さん?」  三上がちょっと覗こうとしてくるし。 「――――……もうさあ、三上ってさぁ……」 「ん?」   「……なんかそういうのさ、可愛いと思って、やってる?」  そういうさ。オレと居てね、とか言って、ニコニコ笑いながら、見つめてくるとか。  絶対可愛いと思って、やってるよね。    そんな風に思って、もう、聞いてしまった、のだけれど。  三上はきょとんとして。すごく驚いた顔してて。  それから、んー……と少し黙ってから。 「……陽斗さん」  コーヒーの道具を全部、カウンターに置いて、三上はオレの腕を引いて、真正面に向かい合う。  顎に手が触れて、優しく上向かされた。 「――――……オレ、今、自分のこと可愛いなんて、全く思ってなかったんですけどね。ていうか、おかしいでしょ、オレがそう思ってたら」  クスクス笑いながら、三上がまっすぐオレを見下ろす。 「でもなんか――――……陽斗さんが、オレを可愛いって思ってるのは、なんか、すごく分かりました」 「――――…………っっ」  しばらく三上の言葉の意味を考えて。  分かった瞬間。  かあっと顔が熱くなった。  オレ今、三上の事可愛いって、思いっきり、言ったようなものか。  ……恥ず……っ。  背けようとしたけれど、顎、捕らえられてて、無理で。 「でもねー、陽斗さん」 「――――……っ」 「可愛いも嬉しいんですけど……」 「――――……」 「できたら、オレ、カッコいいって、思われたいんですけど……」  なんだか、急に、真顔になって。  オレをまっすぐに見つめてくる。 「どーしたら、思ってくれる?」  ……っカッコいいが8割9割だってば。  たまに、可愛いだけで。  真剣に見つめられて、囁かれてしまうと。  ――――……すごいドキドキするけど。  ここでカッコいいとか、なんか。  どんだけ好きなんだって感じで。  恥ずくて、言える訳ない。     

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