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第197話◇誤解

「……陽斗さん」  テーブルの席で隣に座ってる先輩の、頭に手を置いて。  よしよし、と撫でてしまう。  何で隣に座ってるかって。  先輩が座ってから、オレが隣に座ったから。嫌そうな顔、ちょっとされたけど。 「その撫で方はなんか嫌だ」  と、避けられてしまう。 「……だって、すげえ可愛くて」 「……何がだよ、もう」 「だってさあ。陽斗さんは、オレがキスうまいって思ってるんでしょ?」 「――――……」 「で、それを誰と練習してきたんだって思って、怒ってるんですよね?」 「――――……怒ってない……」  ぷい、とそっぽ向く。   怒ってないとしたら、拗ねてる。  どっちにしたって、死ぬほど可愛い。 「……あのね、先輩。オレ、今までキスは、ここまでしてないよ」 「絶対嘘だし」  はは、と笑ってしまう程に、先輩は即答。 「そんなに言う程キスうまいって思ってくれてるなら嬉しーな」 「…………っ」  先輩は、自分が言ってる事に、ようやく気付いたのか。  少し時間がおいてから、不意に、かあっと赤くなって。  そのまま、口元を手で覆って、俯き加減。  くす、と笑ってしまう。 「あのさ、陽斗さん」 「――――……」 「こんなにキスしたいと思うの、初めてなんだよね」 「――――……」 「だからオレが今、キスうまいって思われてんなら」 「…………」  なんか、言えば言う程、どんどん先輩の眉が寄ってって、赤くなってく気がする。 「それはただ、陽斗さんに、めちゃくちゃ気持ち良いキスしたいなーって思ってるから、だと思いますけど」 「…………っ」  オレが言い切ると同時に、先輩は思い切り横を向いて。つまり、オレと反対方向を向いて、完全に背を向けてしまった。 「……っつか。三上、恥ずかしく、ない?」 「……ないけど」  クスクス笑ってしまう。 「なんかオレが 今まで色んな人とすげーキスしてきたからうまいんだと思われてるとか、心外と言うか、誤解だからさ」 「――――……」 「ほんと。こんなに――――……一緒に居たいのも、初めてですよ」  ほんと、自分でも、こんななのが、不思議な位。  すると。  完全に背中を向けていた先輩は。  ちょっとムッとした感じのまま、振り返って。 「――――……ほんとかなーって思うけど」 「……」 「でも、オレも、こんなにドキドキすんのは、初めてで、なんかほんとによくわかんないというか……」 「――――……」  うわー。なんかこの人。すごい嬉しい事言ってるし。  ……ほんとにこの人って…。  オレをのせる天才だなあ……。  ついつい、先輩の腕を軽く掴んで、自分の方に引き寄せてしまう。 「三上?」 「キスしてい?」 「…………」 「さっきよりは、優しくするから」  そう言って笑ってしまうと、先輩は。しばらくオレを見つめていたけれど。  その内、ん、と頷いて、瞳を閉じてくれた。

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