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第203話◇いいだろ。

「なんかさ、渡瀬先輩と仲良くなった?」  社食で昼食を食べ始めた時。同期の伊藤の、何気ない言葉。  内心、ドキっとしながら。 「そう?」  と、何気なく返す。  ――――……先週金曜に出張に行って、まだ水曜。  忙しかったし、そこまで仕事中には絡んでいない。月曜は社食に一緒に行ったけど、もう昼時間終わりかけの頃だから、他に人は居なかったし、昨日は外で食べたし。  今日だって、部会の後、先輩は外回りに行ってしまった。ほんとなら一緒に行くのに、今日オレが色々まとめなきゃいけない案件が入ってきてしまったせいで、先輩に断られてしまった。  今日行くとこは、大変なとこ無いし1人で平気。三上はそれ終わらせろよ、なんて言われて、見送るしかなかった。  で、昼まで帰ってこなかったから、同期と社食に来た所。  て事は、仲良くしてる所なんて、一体どこで見たんだろうと思うレベル。  朝一緒に出社した所、見られてたとか?  「何でそー思った?」  オレが、聞くと。   伊藤はオレをちらっと見て。 「渡瀬先輩が、笑いかけてるからさー。お前に」  クスクス笑ってそう言う。 「ちょっと前まで、お前に笑わなくなかった? あの人、良く笑う人なのに、よっぽど嫌われてんのかなと……可哀想にって思ってたんだよね」 「…………」  可哀想って……。  苦笑いをしていると。   「まあでも、マンツーマンだから厳しく育ててんのかなとも思ったし、お前は平気そうだから特に突っ込まなかったんだけど」  ――――……なんか、オレの周りの奴らって、マジでよく見てるよな。  オレは今後の事も色々あるし、会社の愚痴は会社の奴にはなるべく言わないようにしてて、ほぼ祥太郎に全て向けてたので、それは良かったとは思っているのだけど。  ……オレが言ってないのに、結構皆見てるってことか。  バラしても良いって覚悟決めない限り、あんまり顔に出すのは、先輩に迷惑かかりそうだからマジでやめとこ……。 「まあ……しばらくは厳しく育ててくれてたのかも」 「やっぱりそうなんだ。ふーん。でもいいよなあ、渡瀬先輩」 「ん?」 「さっきの部会もさ、あんなとこで急に振られても全然平然とさ。でもって説明も分かりやすいし。すげーかっけーよな、先輩としてさあ」 「……そう、だな」  何だか、嬉しいような。あんまり見んなと言いたいような。  何とも言えない、複雑な。気持ち。 「とか言って、他の先輩褒めてっと、お前の先輩が悲しむんじゃねえの?」 「ああ、もちろん、今のは内緒な」  誤魔化して突っ込んだオレのセリフに苦笑いする伊藤。笑いながら頷いた瞬間。 「陽斗ー」  誰かが呼んだ先輩の名前に、ぴく、と反応してそちらを見ると、先輩がトレーを持ったまま、その声に頷いてる所だった。  あ。先輩、帰ってきたのかと、一瞬で弾む心。  先輩を呼んだのは、オレの後ろの方に座ってる、先輩の同期。  その呼びかけに頷いた直後、先輩が、オレにも気づいて、視線を止めた。  ……話しかけてくれるかな。なんて、思う。  それとも、ここでは、素通りされるかな。  オレも同期達と一緒だし、先輩も同期の所に行くんだし、後でどうせすぐ会うし。と、素通りされても良い理由を自分の中で考えていると。 「三上、ただいま」  先輩は笑顔で言って、オレのとこで止まった。 「……おかえりなさい」 「さっきの全部まとまった?」 「はい。大体」 「さすが。あとでチェックするから見せて?」 「はい」 「ん。あとでな」  ふ、と優しく笑って、先輩は、さっき声をかけた同期の方へ歩いていく。  ――――……あー。なんか。  ……だめだな。これ。 「やっぱ、全然違うね、渡瀬さん。いいなあ、やっぱり」  とか言う伊藤のセリフについつい。 「いいだろ」  なんて言ってしまって。 「あ、なんかむかつくな、お前」  とか言われた。  ――――……うん。良いんだけど。困るのは。  抱き締めたくてたまんなくなるって事で。  何だかものすごく、気持ちを持て余して。オレは、うーん、と頭を掻いた。  

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