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第204話◇二年間ずっと

 昼食を終えて、席に戻った。  先輩に見せる資料を準備しつつ、先輩が帰って来るのを待っていると。 「ただいま」  そう言いながら、先輩がオレの後ろを通って、隣の席に腰かけた。 「おかえりなさい」  そう返して、先輩を見ていると。先輩はふとオレを見て、にっこり笑ってくる。 「お待たせ、作ったやつ見るよ。貸して?」 「お願いします」 「ん」  渡した資料を静かにじっと見つめて、めくっていく。  オレは、変にならない程度に、先輩を見つめる。  あぁ、ほんと。資料を見て、下を見てる睫毛が長くて可愛いし。キレイだし。  なんなら、資料をめくってる指すらキレイというか。  触れたいというか。  頬にキス、したいというか。いや、唇に――――……。  おいおい。しっかりしろ。  この盛り上がり方が、マジで中高生。恋愛覚えたてみたいだなと自分で思い、ほんと落ち着かないとと、思ってしまう。  先輩から少し視線を外して、オレは、自分のノートパソコンに目を向けた。  オレ、ほんとに好きすぎだな。  やばすぎる。 「ん、大丈夫かな。……あ、三上、ここ」  呼ばれて、先輩の方を見ると、近づいてきて、資料を指さす。 「これだけさ、データも、後ろにつけといて?」 「はい」  頷いて、受け取る。  近いなー。距離。資料を見せるためだとは分かっているのだけれど。  ……分かっているのに、ドキッとする。  少し、先輩から離れて、とりあえずデータ……と、パソコンの方に向き直ろうとしたら。先輩がクスクス笑って言う事に。 「んー、三上、ほんと良く育ってるな。仕事すごく速いし。オレのスパルタのおかげかなー」  楽しそうに笑って、先輩がオレを見つめる。 「……ほんとスパルタでしたけど」  苦笑いで答えると、ふ、と瞳を緩めてくる。 「でも、三上出来てたし」  笑いながらそんな風に言って、オレを見つめてくる。  オレはきっと今まで、こんな風に、褒めてもらいたかったんだと思う。この人に。だから、今、これってものすごく嬉しい、事であるんだけど。 「――――……」  なんか今となっては、先輩がそんな風に、可愛い顔してニコニコされると。  抱き締めたいとか、また別の欲求が、浮かんでしまうらしい。  ……とりあえず、オレが、どんだけそれに惹きつけられるか分かっといてほしい。  はー。もう。ほんとにもう。  冷たい時もオレをかき乱し。  ……冷たくなくなったら更に、かき乱されるとか。  ――――……先輩と知り合って、二年。  ほんとに、オレん中って、この人の事ばっかだったなぁ。    もう、今なんて、昨日腕の中に。……ていうか、今朝も腕の中に居た先輩が、思い出されて、ほんとヤバいんだけど。 「オレ今から、午前中のことで報告があるから席外すけど。三上、何か聞きたい事ある?」 「大丈夫です」 「ん。じゃあしばらく行ってくる」 「はい。いってらっしゃい」 「うん」  オレをまっすぐ見つめて、ふ、と笑んでから、先輩は歩き去って行った。 「――――……」  何だか持て余して、ポリポリ頭を掻きながら。  とりあえず、データ探そ……と、パソコンに向き直る。  笑顔がものすごく嬉しいような。  ――――……触れたくなって、我慢が厳しいような。  何だかなあと、仕事しながらも、延々考えてしまった。    

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