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◇引き締める?
先輩が報告で席を外して、しばらく。
仕事が一通り落ち着いた。
パソコンでメールのチェックをしながら、ほんの数日で変わった関係を少し考える。
「――――……」
オレ、少し前まで、嫌いだと思ってたんだよな。
ムカつくって、ずっと思ってて、祥太郎にずっと愚痴ってて。
――――……先輩には理由があって、それが無くなったから、先輩は普段の先輩に戻っただけ。
笑顔で、褒めて、優しい先輩。
――――……うん、ずっと、他の奴にはそうだった。
とりあえず、仕事中は、勝手に惑わされないようにしよ。
先輩の事は、すげー好きで。
しかもあの人、多分意識しないで、他の人に対するよりももっと、めちゃくちゃ笑顔でオレを見つめてくるけど。
仕事はちゃんと出来る、て所は守ろう。
先輩に認めてほしい願望は、変わらず、ずっとあるし。
で。
仕事終わったら、めちゃくちゃ、好きを出しまくることにしよう。
平常心。平常心。
唱えているところに先輩が戻ってきた。
「んー……」
何だかすごく苦笑いを浮かべている。
「どーしました?」
「今、帰ってくる途中で志樹に会って。18時にここに迎えに来るって」
あぁ、と頷く。
「何でそんな苦笑いなんですか?」
「――――……なあ、オレ、今お前にすごい笑ってる?」
「え?」
こそこそと聞かれて、首を傾げてしまう。
まあ。すごい笑ってる、とは思うけど。
何が聞きたいんだろ。兄貴に何かを言われたとか?
「志樹、さっきこの部屋来てたらしくてさ。オレが三上に、めちゃくちゃ笑顔だったって笑われてさぁ」
「――――……」
「別にオレ、普通だよな?」
まわりを気にしながら、聞かれないようにこそこそ言ってる。
「――――……正直に言うんですけど」
「うん?」
「……先輩、めちゃくちゃ笑顔ですよ」
「――――……」
ものすごい眉を顰めて、見つめられる。
うわー、この人、全く自覚なく、あれか。
思わず、ぷ、と笑ってしまった。
「……オレもすごくそうだったんですけど……嬉しくて」
そう言うと。先輩は、じっとオレを見つめた。
「ちょっと、お互い引き締めますか、仕事中だけ」
「――――……オレそんな緩んでた?」
そう聞かれて。なんか困った顔が、可愛くてならないので。
「んー、まあ少し……」
少しじゃない位、嬉しそうに笑ってたけど。
落ち込みそうなので、控えめにそう言うと。
それでも先輩は、ふー、と深呼吸を始めて。
一瞬、机に突っ伏した。
初めて見る。
そんな事してる先輩。
でも一瞬だけだった。
すぐに起き上がって、もう一度だけ、息を吐くと。
「加減分かるまで顔引き締めてるけど、気にしないで?」
なんて、眉顰めたまま、言ってる。
何か、すごく、可笑しい。
加減が分からなくなるほど、先輩も浮かれてんのかなーと思うと。
また、それも可愛いな、なんて感じてしまう。
「……分かりました」
クスクス笑いながら頷くと、ちら、と見られて。
「志樹と話すの余計やんなってきた」
なんて、ぶつぶつ言うから、益々笑ってしまう。
「まあ……頑張ってくださいね? 適当に……」
「……まあさ。もうある程度バレてるから――――……そのまま話すだけなんだけど。すげーニヤニヤしてんだもんな、志樹……はー、やだ。ああやって笑ってる時って、ほんと……しかも話す内容がそれって……」
仕事をしようと、無理無理正していた姿勢が、また少し前に倒れ込みそうになってる。苦笑いで見ていると、すぐにまた、だめだ、仕事しようと起き上がる。
とりあえず、先輩的には、兄貴とのこれをクリアしないとだめらしいし。
まあそこは……頑張ってもらうしかないしな。
……とりあえず、オレは、祥太郎に惚気てこよ。
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