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◇さすが。
「陽斗、帰れるか?」
時間通り、兄貴が先輩を迎えに来た。
――――……周りの女子が、ざわつく。
……ほんとむかつく。すげー目立つんだよなこの人……。
今日は先輩を連れて行ってしまうから、余計不愉快。
つーか、社長代理、忙しいんだろ。18時なんかに帰るな。
仕事しろ、死ぬほど仕事。
黙ったまま、パソコンに向かってると。兄貴が少し笑う気配。
じろ、と見上げると。
軽く握った拳を、口元に持っていった所。
「……何」
「大好きな先輩。今日は借りるから」
「――――……っ」
「志樹」
からかうような小声に、先輩が、き、と兄貴を睨んで制する。
その視線に、ぷ、と笑って。「はいはい」と流すのもまた、ムカつく。
「じゃな、三上。飲みすぎんなよ」
「先輩こそですよ」
「ん」
ふ、と笑んで、じゃあね、と言って、兄貴の後ろに歩き出す。
つーか。
……ちょっと絵になるとか、ああ、すげームカつく。
いや、オレとの方が絵になるはず。
ほんの少しだけ兄貴のが背ぇ高いけど。……あぁ、くそムカつく。
それに、当たり前のように、「陽斗」と呼び捨てるのが、腹立たしくてしょうがない。
とまあ。
本当はそんな事を言ってる場合ではない。
先輩は、兄貴と、オレとの話をしにいくんだよな。
兄貴がどんなつもりかは分かんねえけど、先輩はちゃんと話さないと、って言ってたし。まあ――――……反対はしないだろうけど。
…………しない。
――――……よな??
なんか、やな感覚になってきた。
よし。このメールだけと思ってたけど。もう、全く持って身が入らないし、帰ろう。早く祥太郎のとこに行くしかない。飲もう。
速攻でパソコンを落として立ち上がると、まだ残ってる周りに挨拶しながら、職場を後にした。
◇ ◇ ◇ ◇
「よー、しょーたろー! 飲ませろー!」
「は? なんな訳、デレ男」
店に入るなりそう言って、祥太郎の目の前のカウンターに座ると、呆れたように一瞥された。
「はー? 変な名前で呼ぶな」
オレがそう言うと、祥太郎は、苦笑いで、オレを見下ろしてくる。
「オレ、お前があんな感じになるとは、思わなかった」
「――――……」
あんな感じって、どれのことだ。
「……あの人、そんなに可愛いの? 顔は綺麗だけど、男じゃん。しかも仕事出来そうな。お前が甘やかす必要なんか一切なさそうだし、そんな事されたら、怒りそうな気もするけど」
「――――……うーん。確かに仕事は出来るんだけど……」
「――――……」
「すげー可愛いとこがいっぱいあって。たまに、びっくりする位抜けてて。特に恋愛関係の話してると、すぐ赤くなって、ほんと可愛くて」
思いつくまま話していたら。
ものすっごく嫌そうな顔の祥太郎が、オレを見ていた。
「お前のノロケ話、しかも男への……聞くとか。もう……マジで、信じられねー」
「――――……だって、可愛かっただろ? そう思わなかったか?」
そう聞いたら、可愛いねえ、と考えた後。
「答えたくない」
と、言いやがった。
「は? 何で?」
とちょっとムッとして、聞き返すと。
「だってお前、可愛くないって言ったらキレそうだし、可愛いって言ったら、もっと面倒そうだし」
「――――……」
「ノーコメントで。――――……ほら、飲め」
祥太郎は苦笑いを浮かべながら、オレに、ビールの入ったグラスを差し出した。
まあ確かに。
どっちで言われても、は?てなりそう。
さすが。
超よく分かってる、オレの事。
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