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第208話◇はず

「お前は、もう結構覚悟決めてんだろ?」 「……そーだな。つか、覚悟ないと、さすがに陽斗さんにはいけねーかも…」  そう言うと、祥太郎は、確かにな、と笑った。 「ちょっとお前に気のある女の子と遊ぶとか。そんなんじゃねえもんな」 「無い。ていうか、まず兄貴と仲いいってことで、ほんとなら無い」  そう言ったら、祥太郎はおかしそうに笑う。 「だよなー。分かるわ。ほれ、つまみ」 「サンキュー。何これ」 「ごぼうチップス」  ふーん、と口に入れると。 「――――……ん、うまい」 「塩気は?」 「ちょうどいいと思う」 「ん」  頷いて、祥太郎は何かをまた作り始めながら、ふと顔を上げた。 「なぁ、ちょっと気になったのがさ」 「うん」 「渡瀬さんは、男ありだったのかよ?」 「いや……ないと思う」 「だよなあ。じゃあ何で?」 「……んー。何でかって言われると……」 「そもそも、何でそーなった訳? 今まで話してもなかった会社の先輩と、しかも男と。たった2日泊まった位で、そーなるっていうのが、全然分からねえ」 「――――……なんか、あんまり、ときめかないっつー話になって」 「ん?」 「試しにキスしてみますかっていう話に」 「待て待て待て」  祥太郎はめちゃくちゃ苦笑いをしながら、オレを止めた。 「分かるけど。オレも最近、ときめきとか呼べるものはあんま感じねーなーとは思うから、何となくは分かるけど」 「ああ」 「だから何でそこから、男とキスしようって事になるんだよ。ならねーだろ」 「――――……んー」  祥太郎の苦笑いを見ながら、少し考えて。 「オレ、多分、元々好きだったんだよ」 「――――……うん。そうだろうな。お前はな」 「陽斗さんのことは――――……その気にさせたって感じかなあ」 「キスで?」 「まあ、そう」 「つか、すげえ可愛くて。収まんなかったから、本気でやってた、かなぁ」 「――――……」  マジマジと見つめられ。 「……ンだよ」  聞くと。  はー、とため息を付かれて、首を大きく横に振られる。 「なんかちょっと同情する、渡瀬さん」 「は?」 「……なんか、迫られるのとか絶対慣れてなくて狼狽えてたんだろうなーとか。あれよあれよとお前が進めたんだろ。考える隙、ちゃんと与えてあげた?」 「――――……いや、ちゃんと、聞きながら、進めたはず」  ……どうだったっけ。  なんか、必死過ぎて、ちょっと咄嗟に思い出せない。 「ンでも、1日目は、キスして、触っただけで――――…… 連泊するかとかも、陽斗さんに決めてもらったし。続きするかも、考えてもらったし……」 「お前がめちゃくちゃキスして、その気にさせたんじゃなくて?」 「――――……それは、そう、だけど」  いや、一応オレ、聞いて進んだよな? 確か。 「蒼生がめちゃくちゃ好きなのは分かるけど。渡瀬さんは、良かったの?」 「……良かった、はず」 「はずはずって。はっきりしろよ」  オレの言い方に、祥太郎はぷ、と笑う。 「――――……あ。お前に言うの忘れてた」 「ん?」 「ここ来て帰った夜に、オレ達、とりあえず、1カ月恋人期間になったんだった」 「え。そうなの? つか、それ、最初に言え――――……つか。とりあえず一ヶ月って、なんだよ……」  祥太郎が苦笑いで、呆れたように言う。  

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