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第209話◇流す?

「……陽斗さんにとってオレって、後輩でさ、年下で……なんか、『未来ある若者』みたいでさ。オレをそんな道へ連れてっていいのかなーみたいな、ずっと迷っててさ」 「――――……」 「だから、ずっと先までって言うとすごい悩むから、とりあえず1カ月、て区切って提案してみたって感じ。意味わかる?」 「……わからん」 「……どこが?」  祥太郎の何ともいえない表情に、笑ってしまう。 「だって迫ったの、お前だろ? そんな道に誘い込んだのも、蒼生なんじゃねえの?」 「その通り」 「だよなあ?」 「けど始まりが陽斗さんの「ときめかない」っつー話だったから……陽斗さんは、オレを、巻き込んだみたいに、多分思ってるんだよね」  少し考えてから、祥太郎が苦笑い。 「年下の後輩の……しかも、友達の弟を、みたいな?」 「そう。それ。――――……多分、そんな感じだと思う」 「まあ分からなくはないけど。でも、絶対悪いの、お前だよな?」  ニヤニヤ笑われて。 「悪いのとか、言うな。悪くねーだろ、別に」 「いやーだってさー、渡瀬さんは、あれだろ? 後輩との話のネタ位な感じで言ったんじゃねえの? ときめかないとかさ」 「……さあ。いや、ほんとに悩み相談みたいな」 「相談されてんのに、キスしたの?」 「……ときめかないっつーから……試しにオレとキスしてみます?みたいなのから……つーか、オレ、無理やりとかしてねーからな」 「ふうん?」 「ふうん、じゃねーから」 「なあ、渡瀬さんて、お前に流されてる訳じゃ、ねえの?」 「流されて?」 「お前が本気で迫ったんだろ? オレはお前に迫られても絶対無理だけど」 「迫んねーわ」  即座に突っ込むが、構わずに笑いながら祥太郎が続ける。 「オレ以外の、耐性ない奴が、お前に本気で迫られたらなぁ……どーだろ。結構な確率で、男女問わず流されそうだと思うんだけど」 「……オレそんなに、流せそう?」  祥太郎の意外な評価に、思わず聞き返すと。 「まーオレは、昔からのお前のモテっぷり見てるから、余計思うだけかもしんねーけどさ」 「お前だってモテたじゃん」 「お前の足元にも及ばねーっつの」  呆れたように笑う祥太郎に、そうだっけ?と首を傾げる。 「お前、気づかねえよなー、どんだけモテてたか。お前に直に近づいてくる奴らだけだと思うなよ、って感じ」 「……言われなきゃわかんねえだろ」 「いやいや、視線とかで分かると思うんだけど。蒼生は跳ね返すもんな。普通は、見られてたら気になるとこだけど」 「なに、跳ね返すって」 「あんだけ見られてたら、普通は視線感じるとこだけど…… 多分お前は無意識に面倒くさいからって、跳ね返してたんじゃないかと、オレは思ってるけどな。気づかない振りしてるってレベルは超えてたような」 「言ってる事、よくわかんねえな」  言うと、あぁもういいわ、と、祥太郎が手をひらひらして見せてくる。 「まあ……だからとにかく、すげーモテてたお前が、あんなデレデレに可愛がって、迫ってんだろ? しかも、意外と恋愛で可愛いとか言われちゃうような人がさ。……流されるだろ、きっと」  流される、か。  ――――……流してんのか、オレ? 「まあ別に、渡瀬さんがそれでいいなら、良いと思うけど」 「――――……嫌がってはなさそうだけど……戸惑ってはいるかな。だから、一ヶ月、てオレが提案しようと思った訳だし」 「あの人は、お前の事、ちゃんと好きなの?」 「……好き、と思うとは言ってる」 「いつからなの?」 「――――……」  んん? いつから??? 「お前は、ずっとだろ、きっと。会った時からとは言わないけど……男綺麗とか言ってる時点で、結構好きだよな。ただ、態度がそれだったからむかつくって言い続けてたけど」 「……ん。そうだな。前から」 「渡瀬さんが、お前の事好きになったのはいつから?」 「――――……」 「……蒼生?」 「……わかんねえかも。 キス、してからかなあ…… 旅行中……?」 「……まあ別に、いいんだけど。そんなに悩んでくれなくても」  すげー悩んでると、祥太郎はおかしそうに笑い出す。

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