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第210話◇マジな恋

「ちょっと分かんねえな……そういう風に聞いた事なかった」 「もう良いよ」  祥太郎は可笑しそうに笑いながら、また料理の皿をオレの前に並べていく。 「完全にノーマルの、職場の先輩がさ。どこらへんから、後輩の男とそうなろうって決めたのかなーって思って、聞いてみただけだし」 「んー」 「つか、完全にノーマルではなかったとか?」  祥太郎のセリフに、一瞬考えて、すぐ首を振る。 「無いと思う」 「それは何で言えんの?」 「……オレと、つーか、男とキスするとか、考えもしてなかったし」 「そっか。対象として考えてもないっつーことか」 「ん」 「……じゃあ、あれだな。ノーマルの渡瀬さん、お前が無理無理引き込んだってことだな」  うんうん、と頷いた祥太郎は、オレに軽く睨まれて更に面白そうに笑う。 「別に悪いなんて言ってねーよ」  クスクス笑って、そう言ってから。 「なあ、ちょっと聞きたいんだけどさぁ」 「……何?」  絶対ろくでもないこと聞いてくるんだろうなあと、直感。 「興味しかないんだけどな」 「だから、 何だよ?」  ますますその予感しかしない。 「男とすんのって、イイの?」  まあ。……そういう事聞いてくるとは思ったけど。  ……案の定だった。  楽し気な祥太郎の顔を見ながら、オレはひとつ、ため息。 「……その聞きかただと――――……オレは、陽斗さん限定って事で」 「そうなのか?」 「……他の男は無理な気がする」 「ああ、分かった。じゃあ聞き方変えるわ」 「――――……」 「そんなに、渡瀬さんって、イイのか?」 「お前って、ほんと……」  はー、とため息をついて、苦笑い。  それからまっすぐ祥太郎を見た。   「――――……男とか女とかじゃなくて、あの人であの反応だから、イイんだと思う」  オレがそう言うと。祥太郎はますます楽しそう。 「オレ相当お前の事、知ってると思うけど」 「ああ」 「そういうのの相手のこと、そんな風に好きって感じのお前、初めて見るよなあ……」  しみじみそう言った後。  よし、と笑う。 「今日は奢り。いいよ、好きなだけ飲め」 「何だよそれ」  ふ、と笑ってしまうと。 「親友の、初めてのマジな恋、祝ってやろうって言ってんじゃん」  クスクス笑いながら、祥太郎は、ドリンクのメニューを出してくる。 「二杯目は? 好きな物言えよ」 「……お前のおすすめで良い」  そう言うと、ふ、と笑いながらメニューを引っ込めて。 「強い酒飲ませてやろうかな」 「オレ酔わねーし。知ってるだろ」 「たまには酔わせたいよなあ」  なんて言いながら、何を作ろうか、考えてるらしい。 「そういや今日渡瀬さんは?」 「ああ。……兄貴と飯行ってる」 「へえ。そうなんだ」 「多分、オレとの事聞かれてる」 「……え゛? 何? ――――……バレてんの?」 「……悟られてたっつーか?」 「うっわー。……こわ」  ちょっと本気で嫌そうに眉をひそめてる祥太郎に、苦笑い。 「陽斗さんが目の前で、兄貴と電話で少し話してて、反対されてるって感じではなかったけど……多分陽斗さんは、結構な覚悟で行ってる」 「……はは。頑張れって、祈っとこ」  苦笑しながら祥太郎がそう言い、酒を何か、作り始めている。  その手元を、オレもまた苦笑いで見つめながら。  今頃どうしてるかなあと、陽斗さんを思った。 (2022/5/6)    次から陽斗サイドです♡

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