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第211話◇side*陽斗 1

 廊下の音楽が結構大きくて、個室にはほとんど聞こえない。  多分、どんな話をしても漏れなそう。  そんな個室に連れてこられて、目の前で、涼しい顔をして注文を終えた、同期の、社長代理。  でもって。……三上の、兄。  ――――……こうして見ると。顔は似てない、かな。  ちょっと前は、目がちょっと似てると思った気がするけど。    ただ、少し。雰囲気は、似てるんだよなぁ……。一緒に長く居ると、感じる。人に流されそうにない、独特な、雰囲気。  でも多分、他の奴は、似てるとかは思わないのかも。三上って名字一緒でも、他の誰もここが家族とか、疑いもしてないもんな……。 「志樹、今日、仕事大丈夫だったの? 無理しなかった?」 「大丈夫。今日は余計なの入れないでもらったし」 「え。このために?」 「そう。当たり前だろ、陽斗との飲みだしな?」  ふ、と視線を流される。  ――――……う。ちょっと怖い。 「仕事の合間の食事以外では久しぶりだよな、陽斗とゆっくり飲みに来るの」 「んーでも、それは志樹が忙しいからだと思うけど」 「まあ、確かにそうだな……」  その時。ドアがノックされて、飲み物と前菜のようなものが運ばれてきた。すぐに店員が出て行って、話が続く。 「陽斗は仕事大丈夫だったのか?」 「うん。急ぎの分は終わったし、他は全部明日に回した」 「蒼生は?」 「うん。三上も、大丈夫。あの後すぐ帰ったと思う」  そう答えると、志樹は、ふ、と笑って、グラスを出してくる。 「ん。お疲れー」  かちん、とグラスを合わせて、そこから少しの間は、仕事の話。  でも多分、オレがそわそわしてるからだと思うのだけれど。  志樹が、ふ、と笑って、オレをじっと見つめてきた。 「今日話したいのは仕事じゃないよな?」 「――――……ん」 「……陽斗がそんな、そわそわしてんの、普段見ないな」  そんな風に笑われて。 「だって、ちょっと――――……状況、特殊過ぎて」 「そうか? 恋人の兄貴と話すってだけだろ?」 「……オレが志樹の弟とって……妹ならまだもう少しマシだったと思うけど――――……男っていうの、大きいし」 「別にオレは、気にならないから」 「――――……そうなの?」  志樹は、やっぱり、いろんな意味で、余裕過ぎる。のか。少しは、気を遣ってくれてるのか。  何て返したらいいのか少し戸惑いながら、志樹を見つめていたら、志樹がオレを見て、んー、と考えながら。 「オレが聞きたい事を聞いてく感じがいいか? それともお前から話す?」 「……じゃあ、まず、志樹が聞きたい事、聞いてよ」  そう言うと、志樹は少し楽しそうに笑う。  楽しそう過ぎて、なんか嫌だけど。 「前から男はありだった? 陽斗」 「うわ。……なんかズバリだな」  苦笑いしつつ。 「……無しだったよ」  そう答えると、そうだよな、と志樹が笑う。 「かけらもそっちの傾向、見えなかったしな」 「……今も、無しだよ」 「――――……何? 蒼生だけ、とか言っちまう訳?」  ニヤニヤされて。一瞬、口を閉じてから。 「……色んな意味で――――……三上以外の男は無理だと思う」  そう言うと。志樹は可笑しそうに、ふーん、と言いながら、肘をついて顎を乗せ、オレを斜めに見やる。 「蒼生がめちゃくちゃ迫ってそーなったのかと思ってたけど。違うのか?」 「……違う、と思う」 「お前が迫った?――――……て訳じゃないよな?」 「……それも、違う、かなあ……」  どっちかがめちゃくちゃ迫った、て訳じゃ、ない気がするんだけど。 「……じゃあ、2つ目の質問」  そう言った志樹に、ん、と答えて、次の言葉を待つ。 「いつから、そういう意味で、蒼生を好きだと思った?」 「――――……」  その質問には、ちょっと困ってしまう。  自分でも、ここから、とかが言えないから。  ただ、何となく、思うのは。 「明確に、ここから、ってのはないし。今思うと、って感じなんだけど……なんか前から、イイ男だなぁ、とは、思ってたかも……そういう意味、ではなかったかもしんないけど……」  どんな意味でも、そう思ってなかったら。  キスとか――――……無理だったんじゃないかなって。今は、なんとなく、思う。    へー。と、志樹がますます楽しそうに笑って。  …………またしても、変にドキドキする。

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