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第212話◇side*陽斗 2
「蒼生は、イイ男か?」
「――――……弟だから、思わない?」
逆に聞き返すと、志樹は、ふ、と笑んで。
少し考えて。
「まあ――――……昔からモテる奴だった気はするけどな?」
その言葉に、そっか、と頷く。
「ん。……そうだろうね。モテると思う」
三上の事を思い出して、ふふ、と笑いながらそう言うと。
「――――……モテるのが、気になるか?」
「――――……」
まっすぐ言われて。
オレは、志樹を、見つめ返して、しばし、無言。
「んー……」
ごく、とビールを喉に流して。
「……まあ。……気にならないって言ったらウソ、かな」
そう答えたら。志樹は、ふ、と笑った。
「陽斗だって、蒼生に負けない位モテるのにな?」
「――――……そうかな」
「……お前がモテないとか言ったら、一緒に合コンに出てた奴らから、クレーム入るぞ」
志樹のセリフに、苦笑い。
「そのさ。合コン」
「ん?」
「……合コン、すごい、なんか――――……圧がすごくて」
「ああ。分かる」
「分かる?」
「分かるって。普通なら、モテモテで喜ぶとこを、お前が圧って感じてるのは分かってた」
ぷ、と笑われて。
「……え。バレてたの?」
そう聞くと、ん、と頷かれる。うわ、すごい、嫌だ。なんて思っていたら、志樹は、おかしそうに笑いながら。
「他の奴は別に気にしてないと思うけど」
「……志樹にしかバレてない?」
「多分な。お前、隠すのうまいし」
「じゃあなんで志樹にはバレてんの?」
「……一緒に居る時間が長いからじゃないか?」
「――――……」
ふー、とため息をつきつつ。目の前の整いすぎの顔を、眺めてしまう。
「……オレの考えてる事、兄弟で悟るの、やめてくんないかな……」
「蒼生、悟るか?」
「んー。……悟られたくないこと、特によく悟るような気がする」
そう言うと、じっとオレを見てから。
く、と口元隠して、笑う。
「面白いな?」
「……面白くないよ」
「――――……にしても。なあ、陽斗」
「ん?」
「新幹線で蒼生がオレに怒鳴ってた時は、そんな雰囲気は無かったろ?」
「うん」
「たかが二泊でどーしたんだ?」
「んー……なんかそんな風に言われると……」
ちょっと考えてから。
「……そのさ。圧を感じてたせいで」
「ん」
「……女の子に……なんかその気にならなくなっててさ」
「……ふーん?」
「それを、お酒飲みながら三上と、旅館で話してて、キスとかしても全然、みたいな事言っててさ」
話してて。
……そしたら。キスしてみるか、聞かれたんだった。
「ん。で?」
「――――……オレちょっと、酔っぱらってて……キスしてみるか聞かれて……そこからだったかも……」
「――――……」
しばらく無言だった志樹は、急にクスクス笑い出した。
「多分蒼生は、本気で聞いてたんだろうな。してみるとか、言いながら」
「――――……」
どうだろ。
……そこは分かんない、な。
首を傾げてると、志樹がますます可笑しそう。
「何でそんな笑ってんの」
「陽斗がきっと色々戸惑ってたんだろうなと思うと」
「――――……笑いすぎだってば」
そう言うと。やっとのことで、笑いを収めてくれて。でもまだ、少し笑んだまま。
「で、結局、付き合うことにしたのか?」
「……今は、恋人」
そう言うと。
そういう微妙なニュアンス、聞き逃さない志樹は。
「今はって何だよ?」
「――――……1カ月。試そうって事に、なってて」
「――――……」
興味深そうに、オレを斜めに見て。
「詳しく話してみろよ?」
笑いを含んだ声で、言われる。
……話すしかないけど。 ……あんま、話したくないような。
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