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第216話◇side*陽斗 6

 何か、今日はもうその話は良いやと思ったのか、志樹の話は、三上の話ではなくなった。もう完全に会社の話や、世間話。いつもの会話。 「もう少し飲むか?」 「うん」 「何飲む?」  メニューを見ながら、飲むものを決める。  注文をしてくれた志樹を見ながら、なんだかホッとする。  志樹と電話で話して、なんか、三上との事は、もうほぼバレてたし。  ――――……志樹はもう最初から、どっちでもいいみたいな、軽い感じで。全然反対するとか、そういうのもないし、緊張しなくっても良かったのは、何となく分かってはいたんだけど。  それでも、オレと三上、男同士だし。やっぱり、結構、気は使ったというか。すごく、ドキドキしてたから。  こうして、とりあえず色々話し終えて。  でも、今までと変わらない感じで話してくれる志樹に感謝とともに。  本当に、すごく、ホッとした。  お酒が運ばれてきて、志樹とまた飲みながらそんな事を考えていたら、ふ、と笑みが零れた。  「――――……何笑ってる?」  志樹に、クス、と笑われて、そう聞かれた。  ああ、なんか。自然に笑っちゃったなあと、思いながら、志樹をまっすぐに見つめた。 「……志樹は、良い奴だなーと思って」 「――――……」 「普通、そんなに物分かり良くないと思うんだよね……。オレにもし弟が居てさ、もし男の恋人がオレのとこに来たら――――……そんな余裕で居られるかなあって思うし」 「まあ――――……オレは、お前を知ってるからな」  ふ、と笑んで、志樹はオレを見つめる。 「陽斗だから。まあ、蒼生がそーなっても、まあ、何となく分かる」 「――――……オレだから?なの? ふーん。……志樹って、結構、オレの事好きなの?」 「――――……」  何だか、少し黙って、志樹がオレを見て、苦笑い。 「酔ってるか? 陽斗」 「んー。まあ。軽く……?」  ちょっとフワフワしてるだけ。 「オレの事好きなの?って――――……蒼生が聞いたら、慌てるぞ」 「……友達としてじゃん」 「蒼生は焦ると思うけど」  クッと笑いながら。 「まあ。好きじゃなきゃ、オレは飯に誘ったりしないけど」 「そっかー。じゃあ、良かった」  志樹は、ふ、と笑って、オレを見つめる。 「そういや、陽斗。この後、蒼生は迎えに来るのか?」 「ん? ううん。電話はかけると思うけど」 「――――……今、連絡してみな」 「……でも、友達の店に居るんだろうし。気づかないかも」 「絶対、一秒で出るから」  ククッと笑って、志樹がそう言う。  そうかなあ。出るかなあ……? 「――――……」  とりあえず、三上のスマホを呼び出してみる。  鳴り始めてすぐに、通話時間の表示が始まった。  あれ。もう出た? 『もしもし、陽斗さん?』  ああ。なんか。  ……三上の声。ちょっと久しぶり。  咄嗟に、そんな事、思ってしまう。なんだか、ちょっと……嬉しいかも。 「三上? 出るの、早や……」  オレの言葉に、目の前で志樹が、ふ、と笑ってる。 『そろそろかなと思ってたから』 「……三上は、まだお店?」 『うん。祥太郎の店。陽斗さんは? 兄貴と一緒?』 「うん。まだ一緒」 『ね、オレ、迎えに行こうか?』  ――――……なんか。そんな言葉に。  すごく嬉しくなってしまう。  ふ、と笑んでから。 「――――……いいよ、帰れるから」 『なんか声、ふわふわした感じ。結構酔ってるでしょ?』 「……少し飲んだだけ。そんな酔ってないよ」  クスクス笑って、返していると。 「陽斗。電話貸して」 「え? あ、うん……」  スマホを志樹に渡すと、志樹が「蒼生?」と話し始める。 「結構酔ってるみたいだからさ。来れるなら迎えに来い」  そんな志樹の言葉に、え、と驚く。 「オレ大丈夫だよ、志樹」  言ってるのに、いいから、と手で制される。 「今ここは――――……」  この場所の説明まで始めてしまった。  その後すぐ電話を切って、切れたスマホを返される。 「良いのに、迎えとか」 「あいつ、もしかしたら迎えにいくかもって思って、家帰らずあの店で待ってたらしいから。喜んで来るから」 「――――……ほんと。いいのに」 「……会いたいと思ったろ?」 「え?」 「蒼生が迎えにいこうかって言った時、嬉しそうな顔したのに、何で断るんだよ」 「え。……してた?」  聞くと。 「してた」  クスクス笑って、志樹が言う。 「さっき言ってた一ヶ月って奴。――――……更新しながらやってくんでもいいと思うけど。どーせ蒼生は喜んでそれを受け入れてるんだろうし」 「――――……」 「あんま我慢しないで、言いたい事言えよな」  我慢。なんて してるかな、オレ。 「――――……マジの、アドバイス。マジで聞いとけ?」  にや、と笑われて。  ……ん、と頷いた。

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