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第218話◇side*陽斗 8

「もうすぐ来るから。陽斗、ここに居ろよ」 「え?」 「蒼生と少し座ったら? どーせあいつ大急ぎで来るし」  言いながら、志樹は伝票を手に取った。 「あ、いくら?」  財布を出そうと動いたら、志樹に手で制された。 「いいよ。面白かったし、お前」 「……何その理由。払うって、いくら?」 「今回はいいよ」  ……絶対もう、受け入れてくれなそうな顔。 「じゃあ今度、何か奢る」 「ん」  ふ、と笑ってる志樹に、ありがとう、と伝えると。 「陽斗、弟になるかもしんないしなー?」 「――――……」  弟。……になるのかな?  ……でも結婚する訳じゃないしな。そう思ってると、それが分かったかのように。 「いつか法律変わるかもしんないし」 「……ほんと志樹って、何言うか謎……」  言いながらも、笑ってしまう。 「――――……ありがと、志樹」 「ん。じゃあまたな」 「うん」  バイバイ、と手を振って、志樹が出て行く背中を眺めて。  ドアが閉まった。 「――――……」  とりあえず、三上の兄である志樹と。話し終えた。  ――――……なんか、志樹は、やっぱりいつも「志樹」で。  独特な感じ。  自分の考えが完全にあって、一般常識とかあんまり関係ない。  非常識では絶対無いけど……なんか、他に侵されないし、曲げないまま、うまく、周りを動かす。  ……普通。弟と、同期の男が、そうなるとか。あんな風に、余裕で聞けるかな。オレは聞けない、きっと。  狼狽えると思う。  そう、なんか、狼狽えないんだよなー。  いっつも、余裕。  何か問題が起こって、オレがどうしようって内心思ってても、志樹は、多分内心ですら狼狽えてなくて、どうすべきかをすぐ考える。  あれを隣で見てたから、結構オレ、新入社員の頃から勝手に鍛えられた気もする。  ……まあ。なんて言うか。  ――――……話してる内に。  オレが、三上の事。すごく好きなの。  改めて、思ってしまった。 「――――……」  何かちょっと気恥ずかしくなったその時。  とんとん、と扉が叩かれて、それから、そっと引き戸が開いた。  顔をのぞかせた三上が。 「陽斗さん」  なんか。オレの顔を見た瞬間。めちゃくちゃ嬉しそうな笑顔で、オレの名を呼んで。扉を閉めて入ってきたと思ったら。  座ったままのオレをぎゅ、と抱き締めた。 「――――……三上……」  何だか。もう。  ほんと、笑ってしまう。  三上の顔を見た瞬間。何だかすごく嬉しくなって。  心臓が、めちゃくちゃ速くなった。 「――――……ごめんな、こんなとこまで」 「何で? 会いたかったし」  少しオレを離して、オレをじっと見つめてくる。  三上の手が頬に触れて、すりすりと撫でる。 「顔見れて、嬉しいし」  とか。  ……キラキラした顔でそんな風に言って、また笑う。  ……キラキラしたって。  オレの目にそう映るだけなのかも。……なんかすごい、可愛く見えてしまう。  ――――……なんだかなあ。もう。ほんとに……。  ……オレも、三上の顔見れて、嬉しいかも。  三上のうなじに手を当てて、くい、と引いた。 「――――……」  ちゅ、と唇を重ねてしまう。  びっくりした顔の三上を見ながら。  なんか。  さっきから、笑顔思い出すたびに。  こうしたかったんだなあと。実感。  

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