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第220話◇穏やか

【side*蒼生】  先輩を迎えに行って、一緒に帰ってきた。 「陽斗さん、着替え洗濯したいやつ、洗濯機に入れちゃってください、乾燥までしちゃうんで」 「うん、分かった」  先に風呂に入ってもらってる間に、部屋着とか新しい下着とか、色々準備。 「陽斗さん、ここに着替えとかバスタオル、置いとくから。下着新しいやつだから、安心して」 「何、安心て」  クスクス笑ってる声がして。「ありがと」と言ってくる。  返事を聞いてからバスルームを離れて、キッチンへ。水とかも用意しておいて、自分の着替えとバスタオルも持ってきて、リビングテーブルの椅子に置いた。ふと時計を見て、んー、と睡眠時間を考える。  もう結構遅いよな。明日も仕事なんだよなぁ。  ……つか、結構、酔ってるしな……。  しばらくして、先輩が出てきた。 「お先に……ありがと、三上も入ってきて?」 「ん。陽斗さん」  そっと、その頬に触れる。 「結構眠いでしょ」 「……うん。ごめん」 「なんで謝んの。全然いいよ。可愛いし」  笑ってしまいながら、その頬にぷに、とつまむ。 「すぐ出てくるからお水飲んでね。あと、ドライヤーとか歯ブラシとか、全部そこ置いたから、寝る準備、済ませといて?」 「うん。……ていうか、至れり尽くせりすぎ」  先輩は、クスクス笑って、可笑しそうにオレを見つめてくる。 「じゃあシャワー浴びてくるね」 「ん」  先輩から離れて、脱衣所。自分の着替えも洗濯機に入れて、先輩のと一緒に、朝に乾き終わるようにタイマーをセット。  すぐに熱いお湯を出す。  今日は、一緒には居れないかなと思って、せめて電話だけでも、と思っていたから。眠そうな先輩だったとしても一緒に居れるとか、嬉しすぎる。  ……というか。眠そうなの、すげえ可愛いし。  は。と気付くと。  鼻歌ふんふん歌ってる自分。  ……オレご機嫌すぎるな。と、苦笑いしつつ。  手早く洗って、バスルームを出た。  ドライヤーをかけてた先輩は、すぐ後ろに居たオレに気付くと、「っわ。びっくりした」と、笑いながらオレを見上げてくる。 「ただいま」  真正面から、むぎゅ、と抱き締めると。ふ、と笑んだ先輩がそっと背中に触れてくる。 「うん。おかえり」  ちゅ、と頬にキスして、手を離す。  唇にしたかったけど、なんだかまた、収まりつかなくなりそうで、とりあえず今日は、変なことしないっつったし、オレ。  キッチンに入って、水を飲む。 「寝る準備出来ました?」 「うん。できた」 「じゃあさ、オレ、髪乾かして歯磨いてから行くから、先にベッドに入っててください」 「え?」 「うん。陽斗さん、そのまま先に眠っちゃってもいいですよ」 「え、良いの?」 「うん。いーですよ。オレ、後からすぐ行くし」  何だか遠慮なのか、なかなか動かない先輩。 「でもオレ、ほんとに布団入ったら寝ちゃうかも……」 「だからいいですよ?」  先輩の肩に手を置いて歩かせ始めて、寝室まで連れて行く。 「すぐ来るから。横になってて?」 「……ん、分かった」  先輩が、やっと頷いてベッドに向かって歩く。  布団に入ったのを確認して、オレは先輩に「寝てていいから」と手を振って。「ん」と先輩が頷くのを見てから、リビングに戻った。  髪を適当に乾かして、明日の朝、何食べようかなとか考えながら冷蔵庫のぞいて。それから歯を磨いて――――……10分、15分位。  寝室に入るけど、先輩は動かない。 「――――……」  そーっと、近づくと、壁際の方に寄って、ちょっとこっちを向いた形で目を閉じてる。  寝てる、かな?  顔、綻んでしまう。可愛く思えて。  なるべく音を立てないように、静かにベッドに腰かけて、先輩の顔を見つめる。 「――――……」  ほんと。綺麗、だなぁ。  睫毛。長い。伏せられてると、余計、思う。  ……かわいい。  自然と手が動いて、触れそうになって。  起こすかも、と手が止まる。  ――――……触りたいけど。明日にするか……。  苦笑いしつつ、手を引っ込めて、先輩の隣になるべく静かに潜り込む。  少しの間、顔を見つめて。  ここに居てくれるのが不思議すぎて、でも嬉しくて。    顔の横で、上を向いて少し開いてる手に、そっと手を重ねる。    なんか、ものすごく穏やかな幸せを噛みしめながら、瞳を閉じた。

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