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第221話◇たまんない
目を閉じて、少しして。
ぴく、と手が動いた気がして、ふ、と見ると。
先輩が、ぼー、とオレを見つめていた。
「……あれ? 起こしちゃいました?」
触れてた手をそっと指でさすりながら、そう言ったら。
「……やっぱり、寝ちゃったじゃんか」
「え?」
なんか先輩、とっても不機嫌そうにそう言うと。
む、とした顔のまま、手をついて起き上がった。
「陽斗さん?」
「……つーか……」
「え?」
ベッドに座ったままで、体を斜めにして、オレの顔の横に先輩が手をついて。
早い話、先輩の手に囲われるみたいになって。真上に、ちょっと不満気な、先輩。
――――……これは……まだ、ちょっと酔ってる??
なんか、ぼー、としてるし。
「……せっかく、家に来たのにさあ」
「え?」
「先寝てろって何……」
むっとした口のまま、先輩は、じっとオレを見つめてくる。
――――……上から見下ろしてくる先輩て。
すげえ、カッコいいというか。
これを見てた女って、よく先輩と別れたなあ、なんて、思ったりする。
……ていうか、オレには。なんか、ものすごく可愛くも見えて。
しかも今ちょっと仏頂面してるし。
……ていうか、今なんて言ってた?
綺麗すぎな顔に見下ろされてるというそっちに全神経が行ってて、聞いてはいたけど、認識してなかった。
えーっと……?
せっかく家に来たのに?
「――――……陽斗さん……?」
む、としてる先輩の頬に触れる。
「……先寝ててっていうのは、陽斗さん、酔ってたし、眠そうだったから言ったんですけど」
「――――……そんなの、分かってるけど」
むー、と口を膨らませる。
……酔うと、仕草がちょっと幼くなるのかな。
こっちが素かな。――――……はは。可愛すぎ。
オレを見下ろしてる先輩を抱き締めつつ、うまく体勢をひっくり返して、組み敷いた。
「――――……っ」
今されてたのと同じように、手をついて先輩を囲って、真上から見つめると、先輩は、ちょっと瞳を大きくして、オレを見つめ返す。
「……先に寝かされたのが、不満なの?」
くす、と笑ってしまう。だって、すげえ、可愛いし。
手を頬に滑らせて、首筋に滑らせる。顎にかけた親指で、顔を動けなくさせて。それから、ゆっくり、唇を重ねた。
「――――……」
先輩、瞳を閉じずに、オレを見てる。
「……一人で寝るの、つまんなかった?」
クスクス笑いながら聞く。
――――……この質問に、うん、なんて、言わないかなと思いながら聞いたのだけれど。
「……だって、来た意味、ないじゃんか」
そんな風に言う先輩。
あ、つまんなかったんだ。
そう思ったら。――――……ああもう、可愛い。
先輩の後頭部に手を入れて、動けないように少しだけ押さえて。
唇を重ねさせた。すぐに開いた唇に、誘われるように、舌を絡める。
「……ん……」
甘えるみたいな、声が、すぐ漏れると。
……可愛いってずっと思ってんのに。余計、たまんなくなって。
めちゃくちゃ深く口づけると。
ぎゅ、と背中にしがみつかれる。
そのまま、思うまま、キス、し続けていると。
先輩の薄く開いた瞳に、また涙が、滲む。
「……ふ……ぁ――――……んっ……」
こく、と唾液を飲み込む音。
喉がひく、と動いて――――……角度変える時に、熱い息が漏れると。
――――……あー。もう。どうしようかな。
せっかく寝かせてあげたのに。
……ほんと。たまんないんだけど。
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