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第230話◇side*陽斗 2

 少し笑ってしまったのを、部長に見つかった。 「何笑ってるんだよ?」 「あ、いえ……なんかちょっと――――……」  濁していると、部長は楽しそうにオレの顔を見つめてくる。 「何だよ、彼女か?」 「……まあ……そんなような……」  言葉を濁すと、部長はへえ、と笑った。  「渡瀬、そんな子、出来たんだな?」  興味深そうな笑顔とそんな質問に、思わず首を傾げる。 「――――……何ですかそれ。オレ、今までもそれなりに相手は居ましたけど……」 「まあな。お前からも、周りからも話は聞いてたけど……モテるっつー話や、言い寄られてる話ってだけでさ。なんかあんまり乗り気な感じは無かったからさ」 「そうですか?……そんなこと、ないですけど……」  と、誤魔化すけれど何というか……さすがだなと思ってしまう。  乗り気な感じがしないって……オレそんなのバレたくないし、特に部長になんて、そんな素振り、出してないはずなのに。  ……なんかいつか三上との事も、バレそうな気すら、する。  ――――……でもなんだかこの人にバレても平気そうな気がするのは、何でだろう。まあ、バレないにこしたことはないんだけど。    志樹の時も、なんか同じようなこと考えたような……。やっぱり少し似てる気がする。 「ま、いいや。とりあえず夕飯行くか」 「あ、はい」 「急で食事は頼めなかったけど、上の方に食事できる店があるらしいから」 「あ、そうなんですね」 「まあ、ゆっくり話そうな?」 「――――……」  楽しそうな笑顔に、思わず苦笑いしながら、一応頷く。  部屋を出て、部長と歩きながら、さっきのメッセージを思い出す。  ――――……アルコール、禁止かぁ……。  部長と食事なのに、飲まないって出来る気はしないけど。  ……なんだろ、心配してるのかなぁ……。  って、何の心配? よく分かんないなぁと思うんだけど、明日いくらでも奢るとか、何だか少し必死な感じがするし……。 「ここで良いか?」 「あ、はい、オレはどこでも……」  言いながら、部長が入ろうとしている店を見ると、完全に居酒屋。  無理だな、飲まないとかそんなの。 「あの、部長、少しだけ電話して良いですか?」  そう聞いたら、部長はオレを振り返って、笑顔で頷いた。 「ああ、いーよ。先一杯飲んでるぞー」 「もちろん、一杯でも二杯でも」 「あぁ、分かった」  笑いながら部長が中に入っていく。  廊下を進んだ先、突き当りの窓まで歩いてから、スマホで三上を呼び出した。すぐに呼び出し音が途切れた。 『もしもし、陽斗さん? お疲れ様です』 「ん。三上、もう外?」 『はい。会社出ました』 「そっか。お疲れ。……あのさ、三上、さっきの」 『すみません、あれ、無しで』 「え?」 『……部長と居るのに飲まないとか多分出来ないですよね』 「――――……」  少しの間、言葉が出てこない。  ――――……何て言うか……。  ……三上って……ほんと、可愛いなー……。  送ってから、反省でもしてたのかなと思うと、愛しく思えてしまう。 「……何で、あれ送ったの? 何か、心配?」 『心配っていうか……』 「心配っていうか? ……なに?」 『――――……いつも可愛いんですけど、飲むと、陽斗さんて可愛くなっちゃうから……』 「――――……」 『可愛いの、誰にも見せたくないんですよね……』 「――――……」  ……どーなってんだろう、三上の中の、オレって。  瞬き数回。何も返事が思いつかない。

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