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第231話◇side*陽斗 3
数秒黙ってから、オレは、話し出した。
「百歩……千歩、譲ってさ、オレが可愛いとしても」
『つか、可愛いですけど』
「……もしそうだとしても、部長とどうかなったりしないから。あの人、娘を溺愛してるの知ってるだろ?」
『知ってますけど……それとこれとは話が違うっていうか……』
「違くないって。絶対無いって」
『……あのさ、陽斗さん』
三上の口調が少し強くなる。
『死ぬほど可愛いから、そう思っといて。浴衣とか着るなら、もー、絶対はだけさせるとかやめてね』
「な――――……」
オレ、今までの人生で、男の前で浴衣を敢えてはだけさせたことなんか、一度もないけど!と、心の中で、咄嗟に浮かぶ。
つか、オレ、こないだ三上と居た時、そんな事したっけ?
耐えられずに、自分がかあっと赤くなるのが分かった。
「……っそんな事しないってば」
『お願いだから、ちゃんと意識してくださいね? 分かった?』
「……分かったって……」
意味は分かんないけど。
何なんだこの恥ずかしい会話。
もー、三上、オレの事、何だと思ってるんだよ。もう……。
そう思いながらも――――……何だか少し微笑んでしまう。
「……大丈夫だよ。――――……三上以外とは、しないから」
『――――……え』
「じゃあね、行くから」
『ちょ、待っ――――……陽斗さん!』
慌てたような、三上の声。
つい吹き出してしまうと、電話の向こうで、からかわないでくださいよ、と三上の声。
「からかってないよ。……ほんとに大丈夫って言ってるだけ」
クスクス笑いながら言うと、三上は、少し黙ってから。
『明日、めちゃくちゃ、可愛がるから』
「――――……!」
理解した瞬間、止めようと思う間もなく、一気に赤面。
「…………っ」
何の返答も出来ないでいると、三上が電話の向こうでクスクス笑った。
『今、絶対真っ赤でしょ、陽斗さん』
「な、こと、ない……」
『顔、戻ってから部長の所に行ってくださいね?』
「……っ」
もはや真っ赤なことを否定しても、三上はまったく聞いてない。
『今日はもう電話無理ですか?』
「……どうだろ。遅くなったら、しないかも」
『オレが寝る時はおやすみって入れとくから、もし入ってなかったら電話してくださいね?』
「ん、わかった」
『そろそろ、戻らないとですよね?』
「うん、まあ……」
そう返事をしながらも少し寂しく感じて、ふと窓から空を見上げた。
東京とは違う。暗い空に浮かぶ月が、すごく綺麗。
「三上、今、まだ外に居る?」
『ん? あ、はい』
「どこに居んの?」
『会社から祥太郎の店に向かってるとこです』
「月、見える?」
『月――――……ああ、見えますよ。満月ですね』
三上の声が、優しくなる。
「……こっち、暗いからかなぁ。すげー綺麗…… なんか先週末のこと思い出す」
三上が答えないので、オレも、少し沈黙。
『――――……陽斗さん』
「ん?」
「明日は一緒に、月、見ましょうね」
そんな声に、自然と顔がほころぶ。
「うん。そーしよ……」
そう言うと、電話越しに三上が優しく笑う声。
ますます、笑んでしまう。
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