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第232話◇side*陽斗 4

 三上との電話を切って、居酒屋の店内に入り、部長を見つけた。  普通に旅館を事前予約している多くの人は今、旅館の食事をとってる時間。この居酒屋は空いてて、静かだった。 「すみません、遅くなって」 「おー。適当に食べ物も頼んどいたけど。メニュー見るか?」  メニューを差し出される。 「頼みたい物あったら頼みな」 「結構頼みましたか?」 「まあ、色々」 「じゃあそれが来てから考えます」 「ん」  メニューを脇に置いて、店員さんに生ビールを頼んだ。 「見ろよ、これ」 「?」  部長のスマホを覗き込むと――――……。  可愛い女の子が、口の周りをオレンジにして、何かを食べてる。 「ミートソースだってさ」 「はは。めちゃくちゃ可愛いですね」 「だろ」  はい、と頷いていると、生ビールが運ばれてきた。部長が飲んでたグラスをオレの方に向ける。 「ん、お疲れ」 「お疲れ様です」  軽く合わせて、一口飲む。  ――――……少しずつ、飲もう。  そんな事を考える自分が少しおかしい。  飲み始めは、会社の事とか、今日の取引先の会社の話や、明日会う人の話など、そんな話をずっとしていた。  部長のお酒が進んで、少し酔いが回って来たかな~と思った頃だった。 「で?」  急に言われて、え?と部長に視線を向けた。 「何ですか? でって?」 「お前は、どんな奴と付き合ってんの?」 「……ああ。えーと……」  一言で言えなくて、ちょっと困っていると。 「言えないなら良いけど。無理やり聞こうっつー訳じゃないし」 「言えないって程じゃ…… そう、ですね……」 「――――……」  三上をふ、と思い浮かべる。  まあ、全部そのまま言える訳はないので、部長に言える所を考えていると。 「すごく、優しい、です」 「……まあ、大事だな」  くす、と笑って部長が頷く。 「あとは――――……なんか、可愛いです」  思い出すと、何だか顔が綻んでしまう。  ああ、なんかオレって。  ――――……相当三上を好きなんだろうなあ。思い出すだけで笑っちゃうとか。いつのまにこんなに……。 「……ベタ惚れかよ?」 「え。いや……別に……」 「そんな風に笑っといて、否定すんの?」  クスクス笑う部長に、あー……まあ、そうですね、と頷く。  すると、部長は、ふーん、と言いながら、また笑った。 「なんかお前ってさ、モテるんだろうに、全然乗り気じゃなさそうでさ。ちょっと心配だったんだよなぁ」 「……そうなんですか?」 「相手からガツガツ来られるの苦手なんだろうなと思ってさ。でもお前みたいな男が居たら、女がそうなるのもしょうがないし」 「……褒めてるんですか?」 「まあ、褒めてるけど? 見た目もだし、仕事出来るのは皆知ってるし、社長代理が認めてるっつーのも皆知ってるから、出世街道まっしぐらだと思われてるだろうしなぁ?」 「……」 「まあでもきっとお前はそういうのに興味ない感じの子が良いんだろうなあ、って思ってた訳。でもきっと居ないんだろうと思ってて」 「――――……オレ、そういうの、部長に話した事ありますか?」 「無いよ」 「……想像ですか?」 「想像というよりは……人を見てからの……予想、かな? 何となくそうなんだろうなーって感じ」  ……怖いなーほんと。部類的には、完全に、志樹の部類の人だなと改めて思う。 「でもよかった。お前がそんな風に、ゆるーい感じで笑うような、好きそうな子が出来て」 「――――……」  つい、笑顔になって、頷いてしまう。  まあ……女の子相手だと無い問題は、色々ありそうだけど……。  ――――……このまま、好き、なら、何とかなるかもしれないとか。  ちょっと……思い始めてるかも。

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