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第233話◇side*陽斗 5

「オレ、お前って、その内に男にどーかされやしないかと思ってたんだよなー」 「………………は?」  三上との事をまた考え始めていたら、部長のセリフ。  一瞬意味が分からない。 「どーかって何ですか?」 「お前って、女にもモテるけど、絶対男にも好かれるだろ」 「……オレ、男にモテた記憶はないですけど」  ……三上はちょっと特別として、遠くへ追いやっといて、話をすすめよう。  じゃないと恥ずかしすぎて、すぐバレる。  心の中で、三上の存在を遠くへ放り投げていると、部長がクスクス笑いながら、酒を煽った。 「どっちにもモテそう。上からお前を可愛いって思う奴にもだし、下から、先輩カッコいいとか、言う奴にも。まあ、男女問わずモテそうって、思うんだよなぁ、渡瀬は」 「――――……根拠がよく分かんないですけど、とにかく過大評価です」 「そおか?」 「そうですよ」 「女にガツガツ行かないなら、男に攻められるかなーってさ。まあそれでいーならいいけど」 「良くないですよ」  ……三上の事は、考えるな、オレ。  本気で頼むから、三上、今オレの頭から、どっか行ってて。 「こないだの京都の取引先のあいつ居たろ?」 「……木原さんですか?」 「あいつ、お前狙いだって、気づいてたか?」 「――――……あの人、結婚してますよ?」  そう言うと、部長は苦笑い。 「結婚してるから、そうじゃないっていうのは、間違ってると思うぞ」 「――――……」 「まあ、気づかない方がいいって時もあるけどな」 「――――……」  何だかよく分からないまま、頷くのもどうかと思い、黙っていると、部長はニヤニヤ笑った。 「……まあもう終わったし、言ってもいいか」 「何ですか?」 「三上さ」 「――――……え?」 「三上」  急に部長の口から出た名前に、ドキドキしながら、部長を見つめ返すと。 「……何ですか?」 「三上、京都で守ってくれたろ?」 「――――……」 「その意識、無い?」 「――――……何ですか? それ?」  部長は、はは、と笑って、オレを面白そうに見る。 「オレが頼んだの。京都の取引先の奴が渡瀬を狙ってる気がするから、守ってやってって」 「――――……は?」  この人は一体何を言ってるんだろう。  首を傾げてしまう。 「三上は帰ってきてから、行って良かったって言ってたから、お前、絶対迫られてたんだと思ったんだけど」 「――――……」 「その意識もないのか?」 「……ご飯、いこうとかは言われましたけど」 「それって三上も一緒にか?」 「……どうだったか……いや、一緒にって話だったと思うんですけど」 「行ったのか、夕飯」 「いえ、なんか三上が体調悪くなって――――……」  あれ、でも仮病だったんだっけ。なんだっけ、なんか、あの時、なんかすごい文句言ってた気がしてきた。 「――――……多分それ、三上が阻止したんだと思うけどな」 「……部長は何て言って三上に頼んだんですか?」 「とりあえずそうかもしれないから、ちょっと気にしてやってって感じだったかなー。ボディガードって言ったような気も……」 「――――……」  何頼んでるんだ、この人は。  ――――……あれ。でも、出張前って、オレと三上って、まだ、全然話してなかった時で……。 「三上、それ頼まれた時、嫌がってませんでした?」 「いや? 割とすぐ行くって言ってたけど」 「――――……」  ……まあ。部長命令、断れなかったのかもしれないけど。  ――――……ああ、道理で、なんか、三上、変だったっけ。  オレと木原さんを二人にさせないように、って感じで。  工場を見に行く時も、ついてくって聞かなかったし。  食事に誘われた時も――――……。  不意に、ふっ、笑いが漏れた。そのまま、クックッ、と笑ってしまう。  あれ、オレの事、守ってくれてたつもりだったんだ。  ……だから、あんなに、必死で――――……。  はは。おもしろ、三上。  だめだ。笑いが、止まらない。 「どした?」  クスクス笑いながら部長が聞いてくる。 「いえ、なんか――――…… あの時、三上が必死だった理由が、今スゴク納得いって……というか、何頼んでるんですか、後輩に」  笑いを収めながらそう言うと、部長もニヤニヤ笑いながら。 「だってあいつなら動じねえし、強そうだから守れそうだし。うってつけだろ」 「……そうですね」  まだ笑いが止まらない。クスクス笑ってると。 「それに、お前らあんまり仲良さそうじゃなかったから。出張で仲良くなればいいと思ったし。三上がどうしても嫌だって断ったら諦めようとは思ってたけどな」 「……断らなかったんですね」 「ああ」  ……あんな関係でも、一応守ってくれようと、してたんだろうな。  ……三上っぽいなあ。  心の中の三上を、なんだかすごく、愛しく思ってしまう。    

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