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第235話◇side*陽斗 7

 ワインが運ばれてきて、それを口にした部長を見ながら、オレは、ふ、と笑ってしまう。 「三上は、多分手は出さないと思いますよ」 「ん? そーか?」 「……まあ昔はモテてて、そーいう感じだったみたいですけど」 「あぁ。……なんか分かる気がする。あいつは特に年下にモテそう。学生時代とか、モテただろうな」 「部長の、三上へのイメージがよく分からないんですけど」  クスクス笑ってしまうと、部長も苦笑い。 「まあオレもよく分からないけどな。モテそうって話」 「入ってきたばかりの後輩に手を出したりはしないと思いますよ」 「……なるほど」 「え?」  なるほど、とは?  部長に視線を向けると、何やらニヤニヤ笑いながら。 「そういうとこも、信頼してる訳か?」 「――――……」  ……信頼。  …………いや、これは――――…… 信頼……ていうのかな。  多分部長が言ってる意味の「信頼」ではない。  オレは、オレを好きだって言ってくれる、三上を、信じてる。  ……って言うんだろうなあ。  ……うわー。恥ずかし。  一人で内心、めちゃくちゃ照れながら、平静を装う。  ――――……三上に、会いたいな。  ……って。 まだ今日の半日、離れてるだけなのに。  最近毎晩、一緒に居るのに。会社も一緒なのに。ほんの数時間で、会いたいとか。  オレどんだけなの……。 「これ飲んだら部屋帰るか。温泉もあるみたいだしな」 「そうですけど……ちょっとお酒抜けてからにしてくださいね」 「これ位問題ないって」 「無理は駄目ですよ」 「平気だって」  そんなやりとりをしていたら、ふっと思い出したのは。  こないだの旅館の部屋風呂で、のぼせてた三上の事。  あれは別にお酒飲んでた訳じゃなかったけど。  ――――……なんか。可愛かったよなあ。のぼせちゃって。  ふと、顔が綻んでしまう。  思えば、あの時はまだ、三上とそんな風になるなんて思ってなかったな……。    ……あれ、いつからそんなになったんだっけって……。  んー。……オレが相談したからか。  キスしてみますか、とか、三上は言ってくれたけど。  あん時って、別にオレを好きだった訳じゃないよな……。  ……つか、三上じゃなくて、そもそもオレだな。  後輩とは言え、お酒も入ってたし、最近枯れた気がするって話位は言ってもいいかなとは思う。  ……部長には言いたくいなから言わないけど、三上と話してて、そう言うの言っても大丈夫な奴な気がしたから、話して……。  ……キスしてみますかって言われて。  ――――……オレは何で、してもらったんだろう。  普通だったら、何言ってんの、そんな事望んでない、とか。言うとこだよなぁ。  ……何で、あんなたやすく、いいとか言っちゃったんだっけ。  酒入ってたからかなとか、ぼんやり思ってたけど。  酒入ってたって、部長とは死んでも嫌だぞ。……死んでもは言い過ぎか。  いやでも、ほんとに嫌だ。無理。軽いキスも、嫌。  というか、部長だけじゃなくて、誰とも、したくないな。  試すとかも、無理……。  あれ。 ――――……オレ、あん時、なにかんがえてたんだっけ。  とにかく、オレにキスしたいと言ってくれた三上に。  ついつい、任せちゃったんだ。  ……でもなんかよく考えたら、おかしいよな。  普通しない。絶対、しない。  三上だったから――――……あんなこと。  ――――……あれ、そういえば、オレって。  ……いつから三上のこと、好きなんだろ。  キスしてから、意識したのかなとか、ぼんやり思ってたけど。  一緒に京都まわったりして過ごしている内に、と思っていたけど。  …………違うのかな。  もしかして。  気づいてなかったけど……少し好きだった……とか?  ……いや。そんな事、ないよな。だって男同士だし。  キスしたり、触れたりしている内にそうなった――――……って。  だからそもそも、好きじゃなかったら、キス、しないんじゃ。 「――――……」 「どうした、渡瀬?」 「……え? あ、なんですか?」 「顔が赤いな。酔った?」 「……あ。はい、ちょっと……?」  語尾を濁して返事をすると、部長は笑う。 「そんな飲んでないだろ」 「です、よね……」  はは、と笑いながら。オレは、頬に触れて、熱を冷まそうとした。  ――――……なんか。  どうしよ。  ……やっぱり、三上と、話したいなぁ……。  部長と少し離れられるまで、起きてくれてるといいけどなあ。

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