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第236話◇side*陽斗
あれからしばらく部長のお酒に付き合ってから店を出て、いったん部屋に戻ってきた。
やっぱり少し休んでから風呂に入りたいと言って、部長は部屋の座椅子に腰かけて、テレビをつけた。
オレは、窓辺から、下の庭を眺める。
――――……なんか。
三上の声が聞きたいんだけど……どうしようかな……。
そう思って、部長を振り返った。
「部長、ちょっと外の庭、歩いてきてもいいですか?」
「何、綺麗なのか?」
「はい。ライトアップされてて」
「んー……じゃあ、この番組見終えたら風呂行くから、そこまでに戻ってこいよ」
「二十分位ですか?」
時計を見ながら聞くと、「ああ」と頷いてる。
「分かりました」
そう返事をして、部屋を出た。スマホを取り出したけれど、廊下があまりに静かなので電話はかけず、一階に降りて、庭に向かう。
外に出て、通話ボタンを押した。
何度か呼び出し音。
その間に、ひとけのない左側に向かって、ゆっくり歩く。
――――……出ないなー。
いつもの店に行くって言ってたし。
仲間の子達、来てたら、電話気づかないかもな。
しょうがないか。
ぴ、と切って、どうしようかな、とあたりを見回す。
ふとさっきも見た満月を見上げる。
近くにあったベンチに腰かけて、ふー、と息をつく。
ライトアップされてて少し眩しいから、さっき窓から見上げた時よりは、月が薄く見える気がする。
しょうがないな……。またあとでかけよ。
戻って、部長と温泉行くか。
――――……あ、でも。
綺麗に光った樹々に、カメラを向ける。
何枚かシャッターを押して、一番綺麗なのを、三上に向けて送信した。
「綺麗だろ」と、一言入れて、スマホを閉じると、立ち上がった。
その瞬間。
スマホが震えだした。
「――――……」
三上の名前に、ドキ、とする。
「……もしもし」
『陽斗さん? ごめんね、さっき気づかなくて』
そう言った三上の後ろはやっぱり少し騒がしくて。
その後、すぐに静かになった。
「店、出たの?」
『そう。仲間来てたから、うるさかったでしょ』
苦笑いの三上。
『部長は一緒? 今何してるとこ?』
「部長は結構飲んでたから、温泉に行く前の休憩中。テレビ見てるよ」
「はは。そうなんだ。陽斗さんは?」
『今、庭を散歩しようかなって……』
「ああ、庭の景色なんだ。綺麗ですね」
『うん』
ふ、と笑みがこぼれてしまう。
『ていうか』
「……?」
『オレ、馬鹿なこと言いますけど』
「うん? 何?」
なんだろう、と待っていると。
『……部長と温泉行くんですか?』
「――――……」
瞬きの回数が、今すごく増えた気がする。
「……なー、三上」
『はい?』
「もー……嘘だろ?」
『……だから馬鹿なことって言いました……分かってますよ』
あ。なんか。
ちょっと拗ねた。
ふ、と笑いが零れてしまった。
可愛いなぁ……。三上。
「まったく、問題ないから」
『――――……あんまり、裸見せないでくださいよ』
「……だからー」
『貸切とかじゃないですよね?』
「なんで、部長と貸切入るんだよ」
苦笑いしか出てこない。
「大浴場って書いてあったよ」
『……もー。ほんと、ささっと入ってね、陽斗さん』
「……うん。もー。分かったよ……」
はー、とためいきをつくと。
『まあ、さすがに……部長と陽斗さんが、って、マジで想像してる訳じゃないんですけどね』
三上が、クスクス笑ってる。
「……当たり前」
オレがそう言うと、でもね、と三上が続ける。
『でもやっぱり――――……あんまり見せないで。裸とか。可愛いとことか』
「……だから。オレを見て、可愛いとか……」
『思うかもしれないですよ。可愛いですもん』
「……はいはい、分かった。分かりました。気をつければいいんだろ?」
『はい』
クスクス笑う三上の声。
優しくて。
なんかやっぱり。
――――……すごく好きだなと。思う。
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