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第237話◇side*陽斗 9
「なあ、三上」
『はい?』
「――――……あのさ」
『はい』
「――――……」
オレ。もしかしたら、結構前から、お前のこと、気になってたのかも。
……じゃなきゃ、キスなんか、絶対しなかった。
もともと、そういう意味の好意があったから、かも。
そう言おうとしたんだけど――――……電話で、顔も見えないのに言うのが、急に恥ずかしくなって、言葉が出なくなった。
『陽斗さん? ……聞こえてます?』
「あ、ごめん、聞こえてるよ」
『今何か言おうとしてませんでした?』
「……何だっけ?」
言うと、三上は、何ですか、と言って、クスクス笑う。
オレ、お前の笑い声、好きだなー……。
優しくて。……楽しそうな、笑顔が浮かぶから。
と、それも、口に出せずに止まる。
『明日、何時頃こっちにつきそうですか?』
「んー……どうだろ。部長の会いたい人が、出張から帰ってきてからだし。でもどんなに遅くても、昼過ぎには出ると思うから、夕方には着くかな」
『分かりました。あ、なんか気になる仕事あります? あるならやっておきますけど』
「ん、ありがと。でも大丈夫。明日帰ってからどうにか出来る程度だから」
『でも――――……陽斗さん、明日は』
「ん?」
『残業にならないようにしてほしいんで……やれることがあるなら、オレ、やります』
三上がそう言う。
残業にならないようにしてほしい……?
『今、何でって思ってるでしょ』
ため息交じりの笑い声が聞こえる。
『オレ、明日の夜、死ぬほど楽しみにしてるんですけど』
「――――……」
それを聞いて、やっと分かった。
『あ。死ぬほどとか、言っちゃった。思わず……』
電話の向こうで苦笑いしてる三上に。
――――……なんか、くすぐったいけど。
ちょっと可愛いなとか。……思ってしまう。
『だって陽斗さん、忘れてるっぽいんですもんねー。ひどいなー、オレ、ほんとに、早く明日が来いってどんだけ思ってるか」
「――――……ごめん、忘れてた訳じゃないんだけど……」
残業しないとかの話と、結びつかなかっただけというか。
『いいですよ。……なんか陽斗さんぽいし』
クスクス笑う三上に、少し、考えてから。
「……大丈夫。そんな遅くならないようにするし。土曜は何もないし」
『――――……』
……あれ?
――――……返事、無い。
「三上? 聞こえる?」
『聞こえますけど。――――……何もないから、遠慮しなくていいってことかなーと思ったらちょっと固まってました』
「――――……?」
『――――……気が済むまで、抱いてもいいってこと?』
「――――……っ」
……違う、オレは、残業になっても、別に翌日何もないから、金曜居る時間が少なくても、土曜も一緒に居れるし、だから大丈夫っていう意味で言っただけで……。
『って、違うか』
すぐに、三上がそう言って、クスクス笑う。
『冗談。陽斗さん、そろそろ戻らないとでしょう?』
「――――……」
『電話、ありがと。この後、電話できるか分からないから、とりあえず言っておきますね。明日、運転、気を付けて帰ってきてくださいね』
電話を終わらせようとしている三上に、オレは。
「……三上」
『はい?』
「――――……さっきの……三上の言うとおりで、いいよ」
『さっきのって……』
少し黙った後。
クスッと笑いながら、三上が。
『気が済むまで、ってやつ?』
「――――……うん」
『――――……絶対そんなつもりで言ってなかったでしょ、陽斗さん』
クスクス笑う三上。
『……でも、ありがと。――――……楽しみに、してるね』
優しい声が。少しだけ。熱をはらんでるみたいな囁き声に変わる。
「うん――――……おやすみ、三上」
『おやすみなさい』
そう言って、ゆっくり、画面を見ながら。
名残惜しく思いながら、通話を終えた。
――――……めちゃくちゃ、ドキドキ、してる。
なんだかなぁ、オレ。
――――……すっごい、三上のことが。
好きじゃんか……。
……今まで付き合った中で――――…… 一番好きだったりして。
そんな風に思って、すごく恥ずかしくなりながら。
スマホを握り締めたまま、部屋に向かって歩き始めた。
(2022/7/24)
次からまた蒼生sideに戻ります。
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