238 / 274
第238話◇おかえりなさい
【side*蒼生】
祥太郎の店を出た時とシャワーを浴び終えた時に、電話をかけたけれど、タイミングが悪くて繋がらず。少しスマホから離れた隙に、先輩から「おやすみ」と入っていたので、仕方なく夜はそのまま寝た。
朝は、部長と一緒で慌ただしいだろうから、「おはようございます。気を付けて帰ってきてください」とだけ入れておいたら、「おはよ~」と一言で返って来たから、おそらく部長と一緒でスマホをあまり弄ってられない中、入れてくれたんだろうなと判断。
会社に来ると、分かり切っていたけれど、先輩の席が空いてる。
特別連絡もないまま昼が過ぎた。
午後の仕事につきながらも、何度も何度も時間をチェックしてしまう。
なんかトラブルとか、無いよな……。ものすごくそわそわするが、狼狽えてても仕方ないし、何かあったら会社に連絡が入るはずだしな。連絡がないってことは元気な証拠。
でも、心配だな。
早く帰ってきてくれたらいいのに。
もやもやしながら仕事をこなし、そろそろ一回、電話してみようかなと思ったその時。
「あー、おかえりなさーい」
ドアの方がざわついて、騒がしくなった。
見ると、案の定、先輩と部長。
あー、良かった、無事で。
心底ほっとして、息をついた。
きっと、色々話して中々こっちには来れないだろうから、よし、この隙にめっちゃ仕事終わらせて、休憩、一緒に行こう。
つい今さっきまで、もやもやでちっとも進まなかったのが嘘みたいに、すごい勢いで仕事を片付け始める自分に若干呆れるが、まあ……仕方ない。
それから案の定、三十分位かかって、ようやく先輩がオレの近くにやってきた。
「おー、陽斗、お疲れ」
「お疲れ様でーす」
皆が先輩に声を掛けるので、それに答えながら、ようやく隣に来て、鞄を置いた。
「ただいま、三上」
――――……一日ぶりの、綺麗な笑顔。
一瞬、言葉が、出ない。
「三上? 大丈夫?」
答えないオレに、先輩は、首を傾げる。
「……先輩」
「ん?」
「……相談があるんで、休憩、しません?」
「え。あ、うん……? いいけど……」
「何か誰かに報告とか、ありますか?」
「いや、今話してきたし……」
「じゃあ、休憩、行きましょう」
ガタン、とオレが立ちあがり、先輩の腕を軽く掴んで引っ張る。
「ちょ、引っ張んなよ、行くから」
先輩が苦笑いでそんな風に言うと、周りの人達が、「三上寂しかったんだろ、渡瀬が居なくて」とか、「良かったなー帰ってきてくれて」とか、ふざけたこと言ってるが。
「相談ですよ、相談」
そう言って、ポーカーフェイスで完全スルーして、先輩と歩いて、業務室を出た。
エレベーターの前で待ちながら、オレを見て笑ってる先輩。
「もー何なの、三上……引っ張んなよ」
苦笑いだけど、オレを見上げて、嬉しそうに笑う。
周りに誰も居ない。
それを確認して、見つめ合った。
「……陽斗さん、おかえりなさい」
しみじみ、心から言うと。
「――――……うん。ただいま」
ふ、と微笑んで、そう言う。
もうなんか。
可愛すぎて。
「――――……陽斗さん、もう、定時で帰りましょ」
そう言うと、先輩は、一瞬、え?という顔をした後、苦笑を浮かべた。
「定時って……無理だよ、あと何分? しかも今から休憩行くんだろ?」
「……じゃあ……一時間残業で」
「えー、それも無理かも……」
「……オレ、何でも手伝いますから、早く帰りましょうね」
「……休憩やめとく? 戻っていますぐ仕事する?」
「……いや。五分だけでもいいから行きましょうよ。今なら休憩の所、人少なそうだし」
「ん。OK。いこ」
先輩はクスクス笑いながら、到着して開いたエレベーターに先に乗り込んだ。
少しでもいいから。
誰も居ないとこで、話したい、とか。まだ仕事も残ってるのに、我儘言ってるよなあ、オレ。
でも。
――――……二人きりのエレベーターで、すごく楽しそうに笑ってるのが可愛いし。
嬉しそうだから、まあ、多分、大丈夫そう、かな。
ともだちにシェアしよう!