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第238話◇おかえりなさい

【side*蒼生】    祥太郎の店を出た時とシャワーを浴び終えた時に、電話をかけたけれど、タイミングが悪くて繋がらず。少しスマホから離れた隙に、先輩から「おやすみ」と入っていたので、仕方なく夜はそのまま寝た。  朝は、部長と一緒で慌ただしいだろうから、「おはようございます。気を付けて帰ってきてください」とだけ入れておいたら、「おはよ~」と一言で返って来たから、おそらく部長と一緒でスマホをあまり弄ってられない中、入れてくれたんだろうなと判断。  会社に来ると、分かり切っていたけれど、先輩の席が空いてる。  特別連絡もないまま昼が過ぎた。  午後の仕事につきながらも、何度も何度も時間をチェックしてしまう。  なんかトラブルとか、無いよな……。ものすごくそわそわするが、狼狽えてても仕方ないし、何かあったら会社に連絡が入るはずだしな。連絡がないってことは元気な証拠。  でも、心配だな。  早く帰ってきてくれたらいいのに。  もやもやしながら仕事をこなし、そろそろ一回、電話してみようかなと思ったその時。 「あー、おかえりなさーい」  ドアの方がざわついて、騒がしくなった。  見ると、案の定、先輩と部長。  あー、良かった、無事で。  心底ほっとして、息をついた。  きっと、色々話して中々こっちには来れないだろうから、よし、この隙にめっちゃ仕事終わらせて、休憩、一緒に行こう。  つい今さっきまで、もやもやでちっとも進まなかったのが嘘みたいに、すごい勢いで仕事を片付け始める自分に若干呆れるが、まあ……仕方ない。  それから案の定、三十分位かかって、ようやく先輩がオレの近くにやってきた。 「おー、陽斗、お疲れ」 「お疲れ様でーす」  皆が先輩に声を掛けるので、それに答えながら、ようやく隣に来て、鞄を置いた。 「ただいま、三上」  ――――……一日ぶりの、綺麗な笑顔。  一瞬、言葉が、出ない。 「三上? 大丈夫?」  答えないオレに、先輩は、首を傾げる。 「……先輩」 「ん?」 「……相談があるんで、休憩、しません?」 「え。あ、うん……? いいけど……」 「何か誰かに報告とか、ありますか?」 「いや、今話してきたし……」 「じゃあ、休憩、行きましょう」  ガタン、とオレが立ちあがり、先輩の腕を軽く掴んで引っ張る。 「ちょ、引っ張んなよ、行くから」  先輩が苦笑いでそんな風に言うと、周りの人達が、「三上寂しかったんだろ、渡瀬が居なくて」とか、「良かったなー帰ってきてくれて」とか、ふざけたこと言ってるが。 「相談ですよ、相談」  そう言って、ポーカーフェイスで完全スルーして、先輩と歩いて、業務室を出た。  エレベーターの前で待ちながら、オレを見て笑ってる先輩。 「もー何なの、三上……引っ張んなよ」  苦笑いだけど、オレを見上げて、嬉しそうに笑う。  周りに誰も居ない。  それを確認して、見つめ合った。   「……陽斗さん、おかえりなさい」  しみじみ、心から言うと。 「――――……うん。ただいま」  ふ、と微笑んで、そう言う。  もうなんか。  可愛すぎて。 「――――……陽斗さん、もう、定時で帰りましょ」  そう言うと、先輩は、一瞬、え?という顔をした後、苦笑を浮かべた。 「定時って……無理だよ、あと何分? しかも今から休憩行くんだろ?」 「……じゃあ……一時間残業で」 「えー、それも無理かも……」 「……オレ、何でも手伝いますから、早く帰りましょうね」 「……休憩やめとく? 戻っていますぐ仕事する?」 「……いや。五分だけでもいいから行きましょうよ。今なら休憩の所、人少なそうだし」 「ん。OK。いこ」  先輩はクスクス笑いながら、到着して開いたエレベーターに先に乗り込んだ。    少しでもいいから。  誰も居ないとこで、話したい、とか。まだ仕事も残ってるのに、我儘言ってるよなあ、オレ。  でも。  ――――……二人きりのエレベーターで、すごく楽しそうに笑ってるのが可愛いし。  嬉しそうだから、まあ、多分、大丈夫そう、かな。  

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