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第263話◇誘われてる?

 怒られるかなーと思いながらも、どうしても袴姿を想像してしまう。  ……いつも、背筋が伸びて綺麗な感じ、そういうのも関係あったのかな。姿勢よくなりそうだよな。  とにかく、似合いすぎ。 「ん? なに?」  陽斗さんがオレを見て微笑む。   「弓道とか、マニアックとか思ってる?」 「思ってないですよ。つか……ほんと、似合います」 「似合うって、袴とかがってこと?」 「陽斗さん、姿勢が良くて、立ち姿綺麗なので……イメージぴったりです」  そう言うと、陽斗さんはオレをマジマジと見て、クスクス笑った。 「すごい今褒められた?」 「褒めたというか、これは事実ですね」  そう言うと、ますます可笑しそうに笑う。 「まあ確かに、袴着てる時は、カッコいいってよく言われたかも。一番言われたんじゃないかなー。袴効果、すごいよ」 「袴効果って」 「あ、あれもそうじゃない?」 「あれって?」 「特攻服」  真面目に聞いてたオレは、がく、と崩れた。 「袴と特攻服一緒にしないでくださいよ」  クスクス笑いながらそう言うと、陽斗さんも、ジャンルは違うけど、と笑う。 「ジャンルとか、そういうものなんですか?」 「うーん、だって、ジャンル違うよな?」 「いやもう、真逆って位ちがいますけど」  でも、そうか。時期は違うけど、同じ高校生の時。  オレは特攻服着てて、この人は、袴着てたのかと思うと。  違いすぎて、我ながらちょっと引く。  あん時はあれが楽しくてやってたけど。まあ後悔とかはしてない。あれはあれで、色々良い思い出もあるし。あの時の仲間は、今も大事だし。 「暴走族っていっても、悪いことしてた訳じゃないだろ?」 「……まあ、道路を暴走してる時点で、悪いことですけど……あー、その話、しなくていいですか?」 「え、何で?」 「……若気の至り、ていうにしてもこの話、陽斗さんとするのは恥ずかしすぎですね」 「そう? ……確かにびっくりはしたけど。そこまで否定もしないけどな」  のんきな感じでそう言って、陽斗さんはクスクス笑う。 「肝の座り方とか物怖じしない感じとか。そういうので生かされてる気がするし」 「それは本気で言ってます?」 「ん?」 「気を使ってくれて言ってたり……?」  そう言うと、ぷ、と笑って、陽斗さんがオレを見つめてくる。 「何でオレがそんなので三上に気つかうんだよ? 本気で言ってるよ」 「……ならいいんですけど」  あー、でも。……言わなきゃよかったよな、族。  何で口走ったんだっけ、陽斗さんに。  ……思い出した。陽斗さんが秘密がどうのと言い出して言い淀んでるから、先に言ったんだ。祥太郎の店に連れてくって話になってたから、どうせバレると思ったし。正太郎の店に行くと、あの仲間たちが居るから、どうせ隠せなかったろうし。じゃあもう、しょうがねーか……。  目の前のテーブルに飲み終えたコーヒーのマグカップを置いた陽斗さん。 「三上、飲んだ?」 「ん? ああ……あと一口」  言いながら、飲み干して、同じようにテーブルに置く。少し傾けてた姿勢を起こすと、隣の陽斗さんが、オレを見つめた。 「……よっかかっていい?」 「え。いい、ですけど」  よっかかるって、どういう……?  と思っていると、少し近くに寄ってきて、とん、ともたれてきた。  ――――……。  やば。  ナニコレ。  すげえ可愛いんだけど。  ふ、と静かに動いた手が、オレの手に触れて、なんか、さわさわ触れてくる。 「……陽斗さん?」 「でっかい手ー……三上って、指、綺麗だよなー」  ……誘われてる??  

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