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第264話◇しようよって

 待て。とりあえず落ちつけ。  オレ、休ませて労わる宣言、したよな。  落ちつけ。  と、オレは内心必死なのだが。 「女の子のさ、可愛い手じゃなくてさ」  陽斗さんは、すごく、のんびりした口調で話し続けてる。 「こんなでっかい手に、こんな風に触る日が来るとは、思わなかった」  そんなことを言いながら、クスクス楽しそうに笑って、陽斗さんはオレの手に触れながら、すりすり擦ってくる。  ……手、擦られてるだけで、その気になりそうな自分にかなり焦りながら。 「……オレ達ってさ」 「え?」 「男は、初めて同士、じゃん」 「ああ。そうですね」  まあ確かに。と頷く。 「男なんて、意識したことも無かったし」 「……ですね。陽斗さんが初めてです」 「オレも。三上が初めて」  自分の手の上にオレの手を重ねておいて、親指で手の平をムニムニと潰してくる。 「こんなでっかい手に触れられるとか、思ったこと、無かったし」 「――――……」 「あと、キス、されるとかも、思ったことも無かった」  陽斗さんは、じっとオレを見つめる。  ふ、と可笑しそうに笑って。 「こんな風に、一緒にいることになるなんて、嘘みたいってまだ思うけど」 「――――……」 「こうしてると、なんか、ドキドキするし……でも安心する」 「――――……」 「だから、あの……」 「……?」 「仲良く、しような?」  ちょっと恥ずかしそうに言って、ふふ、と笑う、綺麗な瞳。  なんかもう。……色々無理。 「――――……陽斗さん、ごめん」 「え? ……ン」  不思議そうに振り仰いだ唇に、ちゅ、とキスしてから、柔らかく、ふさぐ。  舌を絡めて甘く噛むと、ん、と声が漏れて、しがみつかれる。  引き寄せて、後頭部を押さえて、深くキスする。  頭ン中、愛しいしか、ない。 「……っん、ふ……」  ソファにゆっくり押し倒して、そのまま口づける。  いたわるって言った、けど……。無理なんだけど。 「……っ……は ……んっ……」  舌が絡み合う。一方的なキスじゃなくて、陽斗さんがちゃんと応えてくれているのは、分かる。  ……このまま触れても、いいかな……。 「――――……」  あーでも……どうしよ。  昨日オレ、相当無理させたのは分かってんだけど……。  少しだけ、キスをゆるめて、どうしようか考え始めたら。  ふ、と瞳を開けた陽斗さんが、オレの首に手をかけた。 「――――……」  ちゅ、とキスしてくる。 「オレ、平気」 「え」 「……平気。……ていうか。しようよ」 「でも」 「ていうか……しないつもりなら、こんなキスすんなって感じなんだけど」  苦笑いで、陽斗さんがオレを見上げてくる。 「ていうか、三上、オレに気、使いすぎ」 「――――……」 「オレも、男だし……そんなヤワくないと思うよ?」  ……男だから、余計。  女よりは、体的に負担がかかるんじゃないかなと、思ってるんだけど。  だるそうにしてたし……。 「じゃあさ……」  はい、と陽斗さんが手を伸ばしてくる。 「ベッド、連れてって。んで、ちょっとだけは、優しくしてくれたらいい」  ふ、と笑む唇。  もうすぐに、「分かりました」とすぐ口から洩れて、陽斗さんを抱き上げた。 「……っなんか言ってはみたけど、軽く抱きあげられるのは、ほんとどうかなって思うけど」  ぎゅ、と首に抱きついてきて、陽斗さんが笑う。 「鍛えててよかったなーと思ってますよ」 「……ん」  そだね、と笑って陽斗さんは、黙る。  寝室、ベッドの上に陽斗さんを降ろして、組み敷く。 「……ちょっとだけは、優しくする、ように頑張ります」 「――――……はは、何それ」  笑う唇に、キスする。

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