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第8話
「っ……、なに、をッッ……」
留める物が何もなくなり羽織っただけになってしまった寝衣を大きく左右に開かれて、籐刹は目を見開く。親しくはないと言っても天帝との関係は人の一生など瞬きひとつとさえ思ってしまうほどに永い。だがその永遠ともよべる時の中でさえ天帝に肌を晒したことも、このように扱われたこともなかった。それどころか天上の誰一人、地上にいた時でさえこのように裸体を晒したことはない。言い表せぬほどの羞恥に籐刹は真っ赤になって寝衣を搔き合わせようとするが、上手く動かすことのできない両手を封じることなど天帝にとっては赤子の手を捻るよりも容易いものだ。片手で籐刹の両手を拘束した天帝は、もう片方の手で籐刹の足を割り開き股座を弄った。
「ヒゥッ……」
思わぬ場所に突然触れられて、籐刹はビクンッと大きく腰を震わせる。しかしその程度で天帝の手がそこから離れることは勿論なく、震えるばかりで力なく項垂れている花芯をやんわりと握った。
「いやッッ……、へいか、陛下何をッッ――」
何が起きているのかわからない。どうしてこのようなことになっているかも、なぜ天帝が籐刹の肌を暴き、あまつさえ天神のものですら不浄と呼ばれるその場所に触れてくるのかも、籐刹には何もかもが理解できずただただ目を見開き声を震わせる。排泄と沐浴以外では自分でさえ触ることのない花芯を天帝は何のためらいもなく弄り、何かを急かすように追い立ててくる。なんとか蠢く手を止めようと足を閉じるが、それは天帝の手を内ももで挟むだけであり止めることはできない。そしてそんな籐刹を咎めるように、天帝は一度花芯から手を離して再び足を大きく開かせた。
「穢れを身の内から出さねば何をしたところで付け焼刃にすぎぬ。今は何も考えず、身を委ねておればよい」
天神というものは男女どちらかの性を持ち、その性の特徴を持ち合わせる。男神であれば精を出すこともあり、女神であれば胸から乳を出すこともできる。だが、それまでだ。
神々は交合によって女神の腹に宿り天上に産まれ出でるわけではない。数え切れぬほどの年月で徳を重ねた精霊が、あるいは数千年生きた獣の命が清らかな魂に包まれて、その天神としての生命は唐突に始まる。それゆえに天神の身体から出される精や乳は人の子と同じ役割を持たない。
天帝の体液に浄化の力が宿るように、たとえ異端とさえ言われるほどに力が弱い籐刹であっても精と共に体内の穢れを外に吐き出すことはできる。天帝はそれをしようとしているのだ。ようやく理解した籐刹は治療のためとはいえ天帝の前でそのようなことをするのは耐えられないと顔を真っ赤にして身を捩り逃げようとするが、天帝がここまできてそのようなことを許すはずもない。
「ぃ、やっ……、陛下ッ、へいかぁッ……」
上手く動かない身体をがむしゃらに捩り懇願するように何度も天帝を呼ぶが、その声は逃げても逃げても決して股間から離れてくれない天帝の手淫によって徐々に甘さを含み、吐き出される吐息は熱く、瞳はトロンと蕩けていった。
かつて天上で生きた時も、夕栄として地上で生きた時にも、籐刹は誰とも身体を交わらせたこともなければ自慰をしたこともない。初めて与えられる未知の快楽に籐刹が抗えるはずもなく、閉じることさえ許されない足はただただ敷布を乱した。
「ぁぁっ……、やめっ……、んんッッ!」
すっかり腹につくほどそそり勃った花芯はトロトロと蜜を零し、天帝が手を動かすたびにぐちゅぐちゅと淫らな水音を響かせた。まるで耳まで犯されているような気持ちになり耐え切れずボロボロと涙を零す籐刹を碧玉の瞳が静かに見つめている。その瞳から、どうしてだか籐刹は目を逸らすことができなかった。
彼が、自分を見ている――。
「身体の力を抜け。何も考えず、何も煩わず、快楽に身を委ねればよい」
何も考えず、何も煩わず。真名を使った魂の束縛ではないはずなのに、その言葉は籐刹の奥深くに入り込み、ぼんやりと頭の中が霞がかっていく。クッタリと身体から力が抜け、拒絶や懇願の声ではなくその唇からはただただ甘く艶やかな吐息と嬌声が零れ落ちた。
腰がひどく重く、だというのに何とも言い難い痺れに揺れ動いてしまう。内ももが震え何かが奥底から突き上げてくるようだ。身体が燃えるように熱いというのに、何故かそれさえも籐刹は心地よく感じた。
「良い子だ……」
素直に身体から力を抜いて熱い吐息を零す籐刹に天帝は優しい笑みを零すと、手の拘束を解いて覆いかぶさるように口づけをした。
甘い口づけ、与えられる蜜をコクリと飲みこんで、燃えるような熱に身を委ねる。自分に真っ直ぐ向けられる碧玉の瞳は柔らかで、その唇も、触れてくる手のひらも温かく優しかった。
何も考えず。何も、煩わず……。
「んっ、んんっ……」
あぁ、なんと、なんと甘く、心地よいことか。こんなにも身体が軽く己の中が空っぽになったかのような感覚は初めてだ。
常に何かを考え、胸を煩わせてきた。呑み込んだ言葉も、諦めたものも、涙を流し唇を噛んだことも沢山ある。この永遠ともとれる生の中で、それは幾度繰り返されたことだろうか。けれど今、それらは何一つとして籐刹の中にはなかった。
ただ身を預け、ただ快楽を享受する。口内を愛撫されながら蜜をすすり、しどけなく足を開いて弄られるがままにすれば、未知の痺れに全身が翻弄されていくが頭の中は空っぽで、こんなにも淫らなことをしているというのに、まるでただただ母の腕で眠る赤子のような安らぎを覚えた。
「んんッ、んぅッ、ん、んんッ……」
何かが溢れ出しそうになって、無意識に腰が大きく揺れる。ナニカが来る。それが天帝にもわかったのだろう、花芯を弄る手はますます早くなりグチュグチュと淫らな音が一層強くなった。もう片方の手でクシャリと髪を撫でられる。その瞬間、ドクンッと何かが弾けた。
「んんッッッ――!!」
耐え切れず腰が浮き大きく突き出される。それでもなお離れぬ手が最後の一滴まで搾り取るように花芯を抜き上げ、ビュクッ、ビュクッと濃い白濁が弾け飛んだ。ガクリと寝台に勢いよく腰を落とした籐刹の太ももはガクガクと震え、開かれたままの唇からは飲みこみきれなかった唾液が溢れ顎を伝った。激しく胸を喘がせてグッタリと四肢を投げ出している籐刹からようやく手を離した天帝は近くに置いてあった布で白い腹に飛び散った白濁を拭い取る。その瞬間、白かった布は黒く染まってしまい、見れば白濁が付着した敷布もところどころ黒くなっていた。籐刹の身体を見れば、黒く禍々しい模様は首まで消え去り元の白い肌が戻ってきている。腹や手足には未だ模様が刻み込まれているが、このまま何度か吐き出させつつ口から浄化の蜜を与えれば数日で穢れは完全に消え去るだろう。吐精して敏感になった花芯に手を伸ばされて、籐刹の腰がビクンッと大きく跳ねあがる。
「ア、アッ、ンァッ!」
花芯に絡められた指に翻弄されるがまま淫ら声を零す籐刹の唇を、天帝は己のそれで塞ぐ。先程と同じように浄化蜜を流し込めば素直にコクリコクリと飲みこむ籐刹の髪を優しく撫でた。嬉しそうに籐刹の目が細められる。幼子のように無垢な、その瞳……。
大人しく身を委ね快楽に頭を真っ白にしている籐刹は、ほんの僅か眉間に皺を寄せた天帝の様子に気づかなかった。
傍から見る者がいれば、天帝の動きはひどく単調でそこに好意や愛しさを感じはしなかっただろう。だがこのような交わりなど何も知らない籐刹には、わからない。ただただ翻弄されるばかりで、促されるがままに蜜を飲みこみ、幾度も穢れを吐き出した。
何も考えず、何も煩わずに。
そして未知の快楽に翻弄されるがままに、籐刹の意識は暗く深い場所に沈み込んだ。
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