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第一章・6
渡辺の言った通り、藍には素敵な服が用意された。
「レディ・メイドで申し訳ないのですが」
「いいえ。ぴったりです」
夏のカジュアルな服装だが、こんなにいい服を着たのは初めてだ。
藍の心は、弾んだ。
切り替えデザインの7分袖シャツに、チノパン。
靴は、シンプルなスエードシューズ。
そして、チョコレートフレーバーのお茶が出されて、藍の強張った心は解きほぐれる心地だった。
「おいしい」
甘い、お茶。
本当に、おいしい。
「やだな。涙が出てきちゃった」
先ほどまで、雨と絶望の涙に濡れてぐちゃぐちゃだったのに。
「平さんに、心からお礼を言わないと」
それだけは、きちんと決めた。
謎めいた男ではあるが、これで藍の心は救われたのだ。
その厚意に、感謝していた。
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