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第一章・8
「なぜ、あのような状態だったのかな」
「そ、それは」
急に言葉を詰まらせた藍だ。
何か訳ありなのだろう。
そう雅貴が判断するには、難しいことではなかった。
「いや、無理には聞かない。そのうち、打ち明けてくれれば嬉しい」
「ごめんなさい」
初対面の人間に、すんなり話して聞かせるような身の上では、なかった。
「気にしないで、食事にしよう」
(気になると言えば、僕だって平さんのことが気になるのにな)
なぜ、雨に濡れた僕に興味を持ったのか。
放っておけばいい話だ。
人にはそれぞれ、事情があるのだから。
(渡辺さんの言ったことも、気になるし)
『雅貴さまは、孤独な御方です。すっかり心を、閉じておいでなのです』
彼は、どうして心を閉ざしているんだろう。
一体、何があったのだろう。
(僕に、どうこうできる立場じゃないだろうけど)
それでも、食事のお供くらいなら喜んで。
楽団だけが、やけに明るい曲を奏でていた。
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