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第二章・8

 ドアのノックで、藍は目を覚ました。 「渡辺さんかな」  ベッドから半身を起こし、寝室に入って来る人を待ち受けた。 「具合は、どうだ」 「平さん」  そこには、スーツ姿のままの雅貴が。  仕事帰りで、そのまま直行してくれたに違いない。 「はい。あの」  お帰りなさい。  藍はまず、雅貴に優しい言葉をかけた。  その言葉に、少々驚いた顔の雅貴がいる。 「いや。その」  ただいま。  返って来たのは、優しい言葉。  こんなにありふれた普段使いの言葉が、二人にはひどく嬉しかった。 「強いストレスを受けた、と医者に聞いた」 「はい」 「辛かったな」  その言葉に、藍の瞳から涙がこぼれた。  こんなにも温かな声をかけてくれた人は、初めて。  次から次へと湧いて出る涙が、止まらない。  雅貴はハンカチを出して、その涙をぬぐってくれた。 「あ、ありが、とう。ございま……、うぅっ」 「好きなだけ、泣くといい」  傍に、居てあげるから。  藍は、泣いた。  雅貴の腕にしがみつき、涙が枯れるまで泣いた。

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