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第三章 雨はいつか上がる
泣きながら眠ってしまった藍の手を、雅貴は静かに撫でていた。
「何があったんだ。彼の身に」
泣きながら、眠ってしまうとは。
「泣く、か。ある意味、うらやましい」
もう私には、泣くことは許されない。
いや、物心つく頃から、人前で泣くことは禁じられていた。
「私は、平家の当主なんだから」
それでも、彼の涙を止めることはできなかった。
「彼が起きたら、何と声を掛ければいいんだ」
思いつかないまま、雅貴は片手で携帯を操作した。
「渡辺。ディナーの準備はできているか?」
『はい。いつでもご用意できます』
「ではそれを、白沢くんの部屋へ運んでくれ」
『ご一緒に、食事をなさるので?』
「そんなものだ」
これで、良し。
雅貴は、食事の支度が整うまでに、藍が目覚めることを願っていた。
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