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第三章・4
「泣けない、人。泣きたいことも、ない人」
そんな雅貴さんは、可哀想な人なのだろうか。
藍は食事を終え、再び一人になっていた。
「超お金持ちで。渡辺さんみたいな良い人が傍にいて」
それでも、可哀想なことがあるんだろうか。
「泣きたいことがない、なんて。そっちの方がうらやましい気がするけれど」
でも、人は辛い思いをした方が、他人に優しくできる、と聞いたことがある。
「平さんはこれまでに、涙が枯れるほど辛い思いをしてきたのかな」
そこで、再び渡辺の言葉が思い出された。
『雅貴さまは、孤独な御方です。すっかり心を、閉じておいでなのです』
心を閉じた、孤独な人。
確かに、そんな印象を受けることがある。
瞳は優しいのに、どこか光を失くした風なのだ。
はつらつとしたところが、無いのだ。
「今度、平さんのことを何か訊いてみようかな」
それには、自分の秘密もさらけ出さねばならないだろう。
でも……。
「平さんになら、言える気がする」
何から訪ねてみようか、と考えながら、藍はその晩を過ごした。
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