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第五章・2
藍が平邸にお世話になり始めてから、一週間が過ぎていた。
ずぶ濡れでみすぼらしかった少年は、一見普通の姿に戻った。
まだ、痩せて小さな体はしていたが、あの時のような悲壮感はない。
全て雅貴のおかげだ、と藍は心から感謝していた。
「どうしたら、いいんだろうね。か」
「聞かれちゃいましたね」
だが、雅貴の心を解きほぐすことを考えていた、とは言えない。
そこまで踏み込んではいけない、と藍は感じ取っていた。
「えっと、あの。僕、これからどうしようか、と思って」
「どう、とは?」
「その。ずいぶん長くここに居させてもらってますけど、いずれは……」
「家に、帰るのか?」
家、と聞いて藍の顔はこわばった。
がくがくと震え、その場にしゃがみこんでしまった。
「大丈夫か、藍くん」
「ごめんなさい。少し、気分が」
急変した藍の様子に、雅貴は慌てた。
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