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第五章・5
『ここは……、僕の家?』
藍は、夢を見ていた。
忌まわしい記憶しかない、怖い家。
『いけない。早く逃げなきゃ』
でないと、あの人がやってくる。
怖い、あの人が。
だが、遅かった。
いつの間にか、その男は藍の前に立ちふさがっていた。
『どこへ行く気だ?』
『雅貴さんの、お屋敷です』
必死の答えに、男は鼻で笑う。
『お前は、どこにも逃げられないんだよ』
そして、藍の手首を強くつかんだ。
『来い』
『やめて、離して!』
『大人しくしろ!』
頬を張られた勢いで、藍は湿っぽい布団に倒れ込んだ。
万年床で、時々酒がこぼされることのある、すえた布団。
男は、藍の服を無理に脱がせていった。
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