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第五章・8
ひとしきり泣いた後、藍はぽつりぽつりと自身の身の上について雅貴に語った。
母が出て行ったあと、残された継父が自分を慰みものに使うようになったこと。
そればかりでなく、知人に売春を強要するようになったこと。
そのうち、タトゥーを施した男にまで犯されるようになったこと。
「このままじゃ僕、本当に風俗へ売られちゃうって思って、それで……」
「それで雨の中を裸足で。傘もささずに」
藍は、膝を抱えてうずくまった。
(とうとう、話しちゃった。雅貴さん、僕のこと嫌いになったよね)
こんな汚れた子、傍に置きたくないよね。
だが、雅貴は藍に手を差し伸べた。
肩を抱き、髪を撫でた。
「よく、話してくれた。明日、一緒に心療内科のドクターに診てもらおう」
「……雅貴さん?」
「前にも話したが、止まない雨はない。君の心に降る雨も、いつかは必ず上がる」
「う、うぅ」
「私に、そのお手伝いをさせてくれないか?」
「雅貴さん」
「何度でも言おう。君の家は、ここだ。どこにも行かなくて、いいんだ」
雅貴は藍を横たえて、その背中をしずかにぽんぽんと叩いた。
藍の嗚咽が止み、深い眠りに落ちるまで、優しく叩き続けた。
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