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第六章・3
「藍くん、金魚はどんな感じかな。治るのかい?」
「はい。もうすぐ尻尾がきれいに整います」
「ありがとう。君に任せて、正解だったな」
「近いうちに業者さんに見てもらって、良いようだったら元の水槽に戻します」
そう言うと、雅貴はにっこり微笑んだ。
「藍くんを、生きもの係りに任命しよう。金魚だけでなく、観葉植物などの様子も、見てやってくれ」
「ありがとうございます!」
そうだ。僕はもう、このお屋敷のお客様じゃないんだ。
何かやるべきことを与えられ、藍は本当にこの屋敷が自分の居場所のように感じられた。
「では、私はそろそろ行かないと」
「え? どこに行くんですか?」
「仕事だ。休みたいところだが、今日は今から取締役会があってね」
一人にして、すまない。
そう、雅貴は言ってくれた。
「大丈夫です。お仕事、がんばってください」
「退屈だったら、庭園でも見てくれ」
四季の花が咲き、池には鯉がいるという。
それだけで、藍の胸には楽園のような光景が浮かんでいた。
(だけどそれは、雅貴さんと一緒に見たいな)
そんな風に、藍は考えるようになっていた。
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