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第六章・5

 独りぼっちの夕食を済ませ、藍は自室へ戻った。  ソファに腰かけ、溜息をひとつ。  もしここが水の中だったら、あぶくがぽかんと生まれていただろう。 「一人だと、こんなに寂しいんだな」  この屋敷に来たばかりのころは、一人になることが心細かった。  見知らぬ環境に一人でいると、不安になるものだ。  そんな理由で、雅貴の姿を隣に求めていた。  でも、今は違う。 「雅貴さんがいないと、寂しいよ」  温かなあの存在に、包まれたい。  ぽかぽかと、温めてもらいたい。  要するに、恋しい。 「恋、なのかな。これって」  他人に恋したことなど、一度もない藍だ。  初めての胸の高鳴りに、とまどった。 「だめだめ! 何考えてるのかな、僕ったら!」  勢いよく立ち上がり、バスルームへ向かった。  心に沸いたほのかな想いなど、シャワーで流してしまうことにした。

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